立川の弁護士「竹村淳」が専門的観点から執筆 法律コラム

速報:放送法64条1項の意義、憲法適合性(最高裁平成29年12月6日大法廷判決)

コラム2017-12-07

速報:放送法64条1項の意義、憲法適合性(最高裁平成29年12月6日大法廷判決)

注:速報につき、後日、記事の内容に加筆修正を加える可能性があります。

●事案の概要

 Yは平成18年3月以降、その住居に、NHKの放送を受信することのできるテレビを設置した。

 NHKは平成23年9月21日到達の書面により、Yに対し、受信契約の申し込みをしたが、Yはこの申込みに対し、承諾をしていない。

 そこで、NHKは、Yに対し、①主位的請求として、放送法64条1項(「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」)により、原告による受信契約の申込みが被告に到達した時点で受信契約が成立したと主張して、受信設備設置の月の翌月である平成18年4月分から平成26年1月分までの受信料の支払いを求め、②予備的請求1として、被告は同項に基づき受信契約の締結義務を負うのにその履行を遅滞していると主張して、債務不履行に基づく損害賠償として主位的請求と同額の支払を求め、③予備的請求2として、被告は同項に基づき原告からの受信契約の申込みを承諾する義務があると主張して、当該承諾の意思表示をするよう求めるとともに、これにより成立する受信契約に基づく受信料として上記同額の支払を求め、④予備的請求3として、被告は受信契約を締結しないことにより、法律上の原因なく原告の損失により受信料相当額を利得していると主張して,不当利得返還請求として上記同額の支払を求めた。

 これに対し、被告は、放送法64条1項は訓示規定であり、仮に同項が受信契約の締結を強制する規定であるとすれば、受信設備を設置することが直ちにNHKの放送を受信することにはならないにもかかわらず、受信設備設置者がNHKに対し受信料を支払わなければらないとするのは不当であり、金銭的負担なく民間放送を視聴する自由に対する制約になっている、あるいは、受信料の支払義務を生じさせる受信契約の締結を強制し、かつ、その契約の内容は法定されておらず、NHKが策定する規約によって定まる点で、契約自由の原則に反するなどとして、同項は憲法受信契約設置者の契約の事由、知る権利、財産権等を侵害し、憲法13条、21条、29条等に違反するなどと主張した。

●最高裁の多数意見

1.放送法64条1項の意義

 放送は、国民の知る権利を実質的に充足し、健全な民主主義の発達に寄与するものとして、国民に広く普及されるべきものであり、放送法はこのような放送の意義を反映して制定されたものである。

 放送法は、旧法において社団法人日本放送協会のみが行っていた放送事業について、放送により国民が十分に福祉を享受することができるよう公共放送事業者と民間放送事業者の二本立て体制をとることとし、そして、公共放送事業者としてNHKを設立し、公共の福祉のための放送法を行わせることとしたと考えられる。

 放送法が、NHKが営利を目的として業務を行うこと及び他人の営業に関する広告の放送をすることを禁止し、事業運営の財源を受信設備設置者から支払われる受信料によって賄うこととしているのは、特定の個人、団体または国家機関等から財政面での支配や影響がNHKに及ぶことのないようにし、現実にNHKの放送を受信するか否かを問わず、受信設備を設置することによりNHKの放送を受信することのできる環境にある者に広く公平に負担を求めることによって、NHKが全体により支えられる事業体であるべきことを示している。

 NHKの存立の意義及びNHKの事業運営の財源を受信料によって賄うこととしている趣旨が、国民の知る権利を実質的に充足し、健全な民主主義の発達に寄与することを究極的な目的とし、そのために必要かつ合理的な仕組みを形作ろうとするものであること等を踏まえると、放送法64条1項は、NHKの財政的基盤を確保するための法的に実効性のある手段として設けられたと解されるのであり、法的強制力を有するというべきである。

 そして、放送法64条1項の「その放送の受信についての契約をしなければならない」と規定していることからすると、放送法は、受信料の支払義務を、受信設備を設置することのみによって発生させたり、原告からの受信設備設置者への一方的な申込みによって発生させたりするのではなく、受信契約の締結、すなわち、NHKと受信設備設置者との間の合意によって発生させることとしたものであるといえる。

 放送法自体には、受信契約の締結の強制を実現する具体的な手続きは規定されていないが、民法上、法律行為を目的とする債務については裁判をもって債務者の意思表示に代えることができるとされており、これにより強制が実現できる。

 以上によれば、放送法64条1項は、受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定であり、NHKからの受信契約の申込みに対して受信設備設置者が承諾をしない場合には、NHKがその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によて受信契約が成立すると解するべきであり、逆にいうと、そうしない限りは、受信契約は成立しない。

2.放送法64条1項の憲法適合性

 電波を用いて行われる放送は、電波の有限性から、元来、国による一律の規律を要するものとされてきたところ、具体的にいかなる制度を構築するのが適切であるかについては憲法上一義的に決まるものではないから、憲法21条の趣旨を具体化する放送法の目的を実現するのにふさわしい制度の設計については、立法裁量が認められてしかるべきある。

 そして、公共放送事業者と民間放送事業者との二本立て体制のもとにおいて、前者を担うものとしてNHKを存立させ、これを民主的かつ多元的な基盤に基づきつつ自律的に運営される事業体たらしめるためその財政的基盤を受信設備設置者に受信料を負担させることにより確保するものとした仕組みは、国民の知る権利を実質的に充足すべく採用され、その目的にかなう合理的なものであり、憲法上許容される立法裁量の範囲内にあるといえる。

 また、任意に受信契約を締結しない者に対してその締結を強制するにあたり、一方当事者であるNHKが作成する放送受信規約によってその内容が定められることについては、同法が予定している受信契約の内容は、同法に定められたNHKの目的にかない、受信契約の締結強制の趣旨に照らして適正なもので受信設備設置者間の衡平が図られていることを要するものであり、放送法64条1項は、このような内容の受信契約の締結を強制するにとどまるものであるから、同法の目的を達成するのに必要かつ合理的な範囲内のものとして、憲法上許容される。

 以上のとおり、放送法64条1項は、同法に定められた原告の目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の受信契約の締結を強制する旨を定めたものであり、憲法13条、21条、29条に違反しない。

3.受信料債権の発生時期

 同じ時期に受信設備を設置しながら、直ちに受信契約を締結したものと、その契約を遅延した者との間で、支払うべき受信料に差異が生ずるのは公平とはいえない。よって、受信契約の申込みに対する承諾の意思表示を命ずる判決の確定により同契約が成立した場合、受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生する。

4.時効について

 消滅時効は、権利を行使することができるときから進行するところ(民法166条1項)、受信料債権は受信契約に基づき発生するものであるから、受信契約が成立する前においては、NHKは、受信料債権を行使できない。よって、受信契約に基づき発生する受信設備の設置の月以降の分の受信料債権の消滅時効は、受信契約成立時から進行すると解するべきである。

5.結論

 以上によれば、NHKの請求のうち、予備的請求2を認容すべきである。

●弁護士竹村淳のコメント

 最高裁は受信契約の強制を定めた放送法64条1項を合憲とし、結論的には、NHKが勝訴しました。しかし、最高裁はその一方で、受信契約は、NHKからの受信契約の申込の到達をもって成立するというNHKの主張を退け、承諾の意思表示を命ずる判決を得る必要があると判断しており、NHKにとっては、受信契約を締結しない者から受信料を徴収するためのハードルが上がったともいえそうです。

弁護士竹村淳(オレンジライン法律事務所)
この記事は平成29年12月7日時点の法律に基づき執筆しています。

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