立川の弁護士「竹村淳」が専門的観点から執筆 法律コラム

ハンコを押す意味とは?

コラム2020-04-15

ハンコがテレワークの阻害要因となっているというニュースを見たので、法律家の見地からコメントしたいと思います。

そもそもハンコを押すことには、どういう意味があるのでしょうか。

法学部に入ったばかりの大学1年生が、民法の授業で、しかも、かなり最初の段階で学ぶことですが、民法では、申込の意思表示と承諾の意思表示が合致することにより契約が成立するとされており、ハンコどころか、契約書(書面)を作成することすら、要請されていません。

そうであるにもかかわらず、なぜ契約書を作成し、ハンコを押すのでしょうか。

契約書を作成する意味は、いかなる合意をしたのかを明らかにする点にあります。

口頭のやり取りでも契約は成立しますが、細かい内容についてまで覚えておくことは、なかなか難しいですよね。また、自分が覚えていても、相手が覚えている保証はありません。もしかすると、本当は覚えているのに、自分に不利だからあえて忘れたふりをするかもしれません。そうすると、いわゆる言った言わないの問題が生じることになります。

この点、契約成立時点のお互いの認識を記載した契約書を作成しておけば、このような問題を避けることができるということになります。

では、なぜ契約書にハンコを押すのでしょうか。

これについては、通常、ハンコはよく考えたうえで押すものであり、自分のハンコを他人に貸したりすることはないから、ハンコが押されていれば、そのハンコの持ち主が内容をわかったうえで自分の意思で押印したといえるから、と説明されます(これ自体、相当怪しい推定だと思いますが)。

契約書に「A」というハンコが押してあれば、(Bさんではなく)Aさんは契約書に納得しているんだなという推定が働くということです(やや不正確ですが、わかりやすくするためなのでご容赦を)。

しかし、逆にいうと、ハンコにはこの程度の意味しかありません。

つまり、契約書の内容を、契約の当事者が理解したという証拠を残せておけさえすれば、ハンコは必要がないのです。

契約の相手に「契約書の案文を送りますので、ごらんになってください。問題がなければ、これで進めたいと思います」とメールで送信し、それに対して「問題ありません。進めてください」という返事が来ていたとしましょう。

ハンコはありません。

この事例において、相手が「そんな契約はしていない」と主張し、裁判になった場合、ハンコがないという理由で負けてしまうのでしょうか。

そんなことはありません。

このメールのやり取りを証拠として出せば、合意が成立したことを裏付けられるからです。

結局のところ、重要なのは、本人がその意思表示をしたことが確認できるかという点であり、ハンコでなくとも、例えば、上記のようなメールのやり取りであっても、本人がその意思表示をしたことが確認できるものであれば十分なのです。

ここまで契約書を例にしてきましたが、これは社内の稟議書でも同じです。

その人が承認したということさえ示すことができれば、わざわざハンコを押す必要などないのです。

そして、その承認したという事実は、メールやチャットなど、現代のコミュニケーションツールをもってすれば、容易に表示し、記録することができます。

ハンコを絶対的に必要と考えている方や組織が存在することは重々承知していますが、ハンコの持つ本質的な意味を考えれば、それが絶対的に必要なものではないことは明らかだと思います。

テレワークが推進され、ハンコの持つ意味を考えるようになったと思います。

コロナ後の世界は、ハンコを押さなくなる世界かもしれません。

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