1. 日本企業における従来型の資金調達と担保慣行
日本の企業の資金調達の方法としては、銀行からの借り入れが一般的であり、その場合の担保としては、経営者の個人保証や不動産担保(抵当権)が用いられてきました。
2. 個人保証・不動産担保の限界と代替担保ニーズ
しかし、個人保証は過大な責任を負う可能性があり、また、不動産担保についても、そもそも不動産を保有していない場合は利用することができず、個人保証や不動産担保以外の担保が求められていました。
3. 不動産の占有を維持したまま設定できる担保―譲渡担保・所有権留保
この点、担保設定者が動産の占有を維持したまま、これに担保を設定するための手法として、譲渡担保や所有権留保売買が取引実務上は用いられてきましたが、民法上は、これらについての規定がありませんでした。
4. 在庫・売掛債権など集合財産を目的とする担保の法的空白
また、在庫や売掛債権などを担保の目的とするためには、複数の動産や債権を一体として担保の目的とする必要がありますが,設定者が将来取得するものを含む財産の集合体を目的とする担保の取扱いについても、民法には規定が存在しませんでした。
5. 判例法理による対応と不明確さ
これらの動産や債権を目的とする担保取引に関する法律関係は、判例法理によって形成されてきました。しかし、判例法理には不明確な部分があることは否めず、担保取引に関する法律関係の明確化のため、ルールの明文化が求められていました。
6. 新法制定への流れ―「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」成立
そして、2025年3月20日、「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」が成立するに至りました。
7. 新法の要旨
7-1. 譲渡担保権の効力
1.譲渡担保契約の効力について、譲渡担保権者の優先弁済権や目的物の使用・収益・処分・取立て等に関する規定、譲渡担保権同士の優劣関係に関する規定を整備。
7-2. 譲渡担保権の実行手続
2.裁判所を介さない動産譲渡担保権の実行や引渡命令、債権取立てに関する規定を新設。
7-3. 破産手続等における取扱い
3.破産手続等では質権者と同様に別除権者として扱うほか、再生手続等での取消命令に関する規定を整備。
7-4. 所有権留保契約への準用
4.所有権留保契約について対抗要件を定め、譲渡担保契約の規定を準用。
7-5. 施行期日
5.公布日から2年6か月以内の政令で定める日から施行。
8. 執筆日
この記事は2025年5月31日に執筆しました。
Last Updated on 2025年5月31日 by takemura_jun