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法律コラム 弁護士竹村淳が様々な観点から不定期で掲載する法律コラムです。

ホストの労働者性(消極)(東京地裁平成28年3月25日判決)

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立川弁護士 竹村淳

弁護士 竹村 淳 

オレンジライン法律事務所の代表弁護士。
東京都立川市を中心とした地域で活動している弁護士です。
労使紛争、債権回収、賃貸借契約、契約書作成などの企業の法律問題のほか、相続問題や交通事故など個人の法律問題も幅広く法的サポートを提供しており、クライアントのニーズに応じた柔軟なアドバイスを行っています。弁護士としての豊富な経験を活かし、複雑な案件にも迅速かつ的確に対応。ブログでは、日々の法的トピックや事例紹介を通じて、わかりやすく実務的な法律情報を提供しています。

ホストの労働者性(消極)

 ホストクラブにおけるホストの労働者性(労働者かそれとも自営業者か)が問題となり、これを消極に解した裁判例がありますので、紹介します(東京地裁平成28年3月25日判決)。

●事案の概要(事実関係は裁判所が認定した事実)

 原告はホストクラブに勤務するホストである。

 原告の勤務するホストクラブの料金体系は、基本料金が約1万円であるが、これとは別に飲食代金がかかり,飲食代金に応じてホストの指名料(最低2000円)が加算された。指名のホスト以外に接客の補助として、ヘルプと呼ばれるホストがつくこともあった。このほか、本件店舗では、飲食代込みで1万円の格安のコースが設定されており、この場合、客についたホストは指名扱いとなるが、1回当たりの指名料金は1000円となっていた。

 ホストの報酬(給料明細上は「基本給」名目で支給)は、売上のスライド制であり、最低保証は1日3000円である。客を呼べるホストは最低保証も高額になるが、日曜・祝日に客からの指名が1件も取れず売上をあげることができなかった場合には、罰金を徴収されていた。

 ホストの指名料は、飲食代金に応じて指名料が増額されていく体系になっていた。

 ホストがヘルプとして客についた場合の手当は、1回あたり1000円であった。格安のコースの場合は500円である。
 
 ホストは、午後5時ころ、私服で店舗に来て、当日分のおしぼりを作り、その後、午後7時までは自由行動となる。同伴出勤をする者は午後9時ころまでに店舗に来るが、それ以外の者は午後7時ころに正装して店舗に来る。退店するのは午前0時から午前零時30分ころである。ホストは、各自の営業努力で同伴出勤してくる客を確保すれば、午後8時に出勤してきたりもするし、午後10時に指名客が来る場合には,迎えに外出することもある。

 ホストは源氏名を使用して接客する。ホストは昼間、別の仕事をすることは自由であるし、ホストが仕事の際に着る服は自腹で用意している。指名客を確保するためのプレゼントも自腹である。客の売掛金回収もホストの責任で行う。

 店舗には内勤という固定給の従業員がいる。ホストと内勤の違いは、内勤が固定給である。内勤は家族手当、交通費の支給があり、社会保険料の控除もあるが、ホストはいずれもない。ホストと内勤の給料台帳は別に作成・管理されている。

 店舗では、1か月に1回、1時間ほどミーティングが開かれていた。被告からの売上報告があるほか、芸能人を呼ぶなどのキャンペーンの報告がなされていた。また、ホストに警察沙汰になるようなことはするなとの注意は厳しくされていた。

●裁判所の判断

 ホストの収入は、報酬並びに指名料及びヘルプの手当で構成されるが、いずれも売上に応じて決定されるものであり、勤務時間との関連性は薄い。また、出勤時間はあるが客の都合が優先され、時間的拘束が強いとはいえない。

 ホストは接客に必要な衣装等を自腹で準備している。また、ホストと従業員である内勤とは異なる扱いをしている。ミーティングは月1回行われているが、報告が主たるものである。

 以上によれば、ホストは被告から指揮命令を受ける関係にあるとはいえない。ホストは、被告とは独立して自らの才覚・力量で客を獲得しつつ接客して収入を挙げるものであり、被告との一定のルールに従って、本件店舗を利用して接客し、その対価を本件店舗から受け取るにすぎない。そうすると、ホストは自営業者と認めるのが相当である。

●弁護士竹村淳のコメント

 「労働者」の定義につき、労働契約法2条1項は「この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう」と規定し、労働基準法9条は「この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と規定しています。

 いずれの規定も文言は多少違いますが同じ意味であると理解されているところ、労基法9条の「労働者」の定義については明確化の試みが重ねられてきました。

 そして、昭和60年に労働基準法研究会は、①仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、②業務遂行上の指揮監督の有無(業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無)、③勤務場所、勤務時間の拘束性の有無、④代替性の有無(本人に代わって他の者が労務を提供することが認められているか否か、また、本人が自らの判断によって補助者を使うことが認められているか否か)、⑤報酬の性格が使用者の指揮命令のもとに一定時間労務を提供していることに対する対価といえるかを主たる判断要素とし、これらでは「労働者」性の判断が困難な場合は、⑥事象者性の有無(機械器具の負担関係、報酬が当該企業において同様の業務に従事している社員に比して著しく高額か否か等)、⑦専属性の有無(他社の業務に従事することが制約されているか否か等)を従たる判断要素として判断すべきとの報告をまとめました(詳細については当コラムの過去記事参照)。

 同研究会の報告は多くの裁判例で参考とされており、本判決も、判断の枠組みを明示していませんが、判決文のなかで示された考慮要素からすれば、同報告の枠組みで判断されたものといえます。

 なお、本判決は、原告の労働者性を否定しましたが、事実関係によっては、労働者性を肯定できる場合もあるように思われ、本判決の存在から直ちに「ホスト=労働者ではない」と短絡的に考えるべきではないことは指摘しておきたいと思います。

弁護士竹村淳(オレンジライン法律事務所)
なお、当記事は平成29年12月4日当時の法律が前提となっています。

Last Updated on 2023年11月23日 by takemura_jun