立川の弁護士「竹村淳」が専門的観点から執筆 法律コラム

注目労働裁判例・大阪高判平成28年7月26日(労契法20条の「不合理と認められるもの」―ハマキョウレックス事件)①

コラム2016-08-01

本事件の最高裁判決について記事を書きました。こちらをご覧ください。

大阪高判平成28年7月26日(労契法20条の「不合理と認められるもの」―ハマキョウレックス事件)①

今回の投稿では前提となる、事実関係及び原審(大津地彦根支判平成27年9月16日)判決内容につき述べます。

1.事案の概要

原告は、被告との間で、以下の内容の労働契約を締結しました。
ア 期間 平成20年10月6日から平成21年3月31日まで(ただし,更新する場合がありえる。)
イ 勤務場所 被告彦根支店
ウ 業務内容 配車ドライバー
エ 勤務時間 午前5時から午後2時まで
オ 賃金 時給1150円、通勤手当3000円
カ 昇給・賞与 原則として昇給・支給しない。ただし,会社の業績及び勤務成績を考慮して,昇給・支給することがある。

同契約は、その後、順次更新され、原告の本件当時の時給は1160円となりました。

被告においては、正社員と原告のような契約社員との間で、賃金について、以下の違いがありました。

正社員は、月給制であり、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、家族手当が支給され、原則として定期昇給があり、賞与、退職金が支給されることになっていました。

一方、契約社員は、時給制であり、正社員に支給される上記各手当は支給されず、原則として定期昇給はなく、賞与も退職金も支給されないことになっていました。

そして、通勤手当は正社員も契約社員も支給されることになっていたのですが、正社員は5万円を限度として通勤距離に応じて支給される(但し2km以内は一律5,000円のに対し、契約社員は一律3,000円でした。なお、通勤手当は、平成26年1月以降は、正社員、契約社員の区別なく、正社員の基準で支給されるようになりました。

以上の事実関係のもとで、原告は、被告における正社員と契約社員の労働条件の差異は、労働契約の期間の定めの有無による労働条件の差異は、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理なものであってはならないとする労働契約法20条に違反するものであるとして、正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認、正社員が通常受給するべき賃金との差額の支払い等を求めて、被告を提訴しました(大津地裁彦根支部・平成27年(ワ)163号)

原審において、会社は各手当の趣旨につき、以下のような主張をしました。

①無事故手当
安全運転をする乗務員の育成を目的とするものであり、長期間の契約継続が予定される正社員に支給することで上記目的との間に親和性を持つものといえる。もっとも、契約社員であっても、無事故に対する報償は時給の増額という形に反映されているのであるから、その支給不支給の区別は不合理ではない。

②作業手当
元来、乗務員の手積み、手降ろし作業に対応して支給されていたものであるが、現在は、正社員に一律に支給されており、実質的に基本給としての性質を有しているもので、正社員の業務の内容及び責任の程度等の相違に基づくものであるから、その支給不支給の区別が不合理であるということはできない。

③給食手当
長期雇用関係を前提とする正社員の福利厚生を手厚くすることによって、有能な人材の獲得・定着を目的とするもので、その支給不支給の区別が不合理であるということはできない。

④住宅手当
長期雇用関係を前提として配置転換のある正社員への住宅費用の援助及び福利厚生を手厚くすることによって、有能な人材の獲得・定着を目的とするもので、その支給不支給の区別が不合理であるということはできない。

⑤皆勤手当
長期雇用関係を前提として特に正社員の勤労意欲を高めるために正社員に支給されるものであるが、契約社員であっても、時給の増額という形に反映されているのであるから、その支給不支給の区別が不合理であるということはできない。

2.原審判決(大津地彦根支判平成27年9月16日)

本件につき、原審は、概ね、以下の内容の判決をしました。

1.
労契法20条の「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者間の当該労働条件上の相違が、それら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同にその他の事情を加えて考察して、当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるを得ないものを意味する。

2.
被告の彦根支店においては、正社員のドライバーと契約社員のドライバーの業務内容自体に大きな相違は認められないが、被告は、従業員数4597人を有する東京証券取引所市場第1部に株式を上場する株式会社であり、また、従業員のうち正社員は、業務上の必要性に応じて就業場所及び業務内容の変更命令を甘受しなければならず、出向も含め全国規模の広域異動の可能性があるほか、被告の行う教育を受ける義務を負い、将来、支店長や事業所の管理責任者等の被告の中核を担う人材として登用される可能性がある者として育成されるべき立場にあるのに対し、契約社員は、業務内容、労働時間、休息時間、休日等の労働条件の変更がありうるにとどまり、就業場所の異動や出向等は予定されておらず,将来,支店長や事業所の管理責任者等の被告の中核を担う人材として登用される可能性がある者として育成されるべき立場にあるとはいえない。

被告におけるこれら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同等を考察すれば、少なくとも無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当及び家族手当、一時金の支給、定期昇給並びに退職金の支給に関する正社員と契約社員との労働契約条件の相違は、被告の経営・人事制度上の施策として不合理なものとはいえないから、労働契約法20条に反しない。

3.
しかし、通勤手当については、通勤手当が交通費の実費の補填であることからすると、通勤手当に関し、正社員が5万円を限度として通勤距離に応じて支給される(2km以内は一律5,000円)のに対し、契約社員には3,000円を限度でしか支給されないとの労働条件の相違は、労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同にその他の事情を加えて考察すると、公序良俗に反するとまではいえないが、被告の経営・人事制度上の施策として不合理なものであり(被告は、正社員の場合は配置転換により長距離通勤が予定されていると主張するが,そうだとしても,正社員の下限の金額が,契約社員の上限の金額を上回っていることの説明にはならないはずである)、労働契約法20条の『不合理と認められるもの』に当たる。

そして、被告における契約社員と正社員とのこのような労働条件の相違は、被告の就業規則において「嘱託、臨時従業員およびパートタイマーについては、別に定める「嘱託、臨時従業員およびパートタイマーの就業規則」による」(4条2項)と定められ、契約社員については、「嘱託,臨時従業員およびパートタイマーの就業規則」が適用されることになる結果、生じるものであるといえるから、これが契約社員であるが故に生じた差異であることは明らかである。

4.
労働契約法20条に反する労働契約の条件は同条により無効となるが、同法12条のような特別の定めがないのに、無効とされた労働契約の条件が無期契約労働者の労働条件によって自動的に代替されることになるとの効果を同法20条の解釈によって導くことは困難であるから、という労働契約の条件が同条に違反する場合については,別途会社が不法行為責任を負う場合があるにとどまる。

そして、本件における原告の損害額は、労働条件の相違がなかった場合に原告が取得できた通勤手当の額と原告に支給された通勤手当との差額であると解されるところ、原告が被告の正社員であったとすれば、どの程度の通勤手当の支給を受けることができたかについては不明であるが、少なくとも正社員の最低支給額である5,000円と、原告の受給額である3,000円の差額である2,000円は損害と認めることができる。
被告の不法行為による損害と認めることができる。したがって、労働契約法20条施行後の平成25年4月分から同年4月分までの差額合計1万円(2000円×5か月分)については、原告が被った損害と認められる。

5.
よって、被告は原告に対し、1万円を支払え。

3 控訴審判決(大阪高判平成28年7月26日判決)

以上の原審判決に対し原告被告とも控訴したところ、大阪高等裁判所は、平成28年7月26日、判決をしました。

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