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法律コラム 弁護士竹村淳が様々な観点から不定期で掲載する法律コラムです。

労働基準法上の「労働者」とは?

労働基準法上の「労働者」とは?

労働基準法は「労働者」を「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しています(同法9条)。したがって、これに該当する者は、同居の親族のみを使用する事業に使用される労働者や家事使用人を除き(同法116条2項)、労基法の適用を受けることになります。

労基法の適用を受けるということは、労基法を基礎とする最低賃金法、雇用機会均等法、労働者派遣法等の適用を受けることも意味しますので、労基法上の「労働者」該当性は重要な意義を持ちます。

この労基法9条の「労働者」の判断基準については、昭和60年に労働基準法研究会がまとめた報告が参考になります。

この報告によれば、労基法9条の「労働者」該当性は、

①仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、

②業務遂行上の指揮監督の有無(業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無)、

③勤務場所、勤務時間の拘束性の有無、④代替性の有無(本人に代わって他の者が労務を提供することが認められているか否か、また、本人が自らの判断によって補助者を使うことが認められているか否か)、

⑤報酬の性格が使用者の指揮命令のもとに一定時間労務を提供していることに対する対価といえるか

が重要な判断要素となります。

そして、これらでは「労働者」性の判断が困難な場合は、

⑥事象者性の有無(機械器具の負担関係、報酬が当該企業において同様の業務に従事している社員に比して著しく高額か否か等)、

⑦専属性の有無(他社の業務に従事することが制約されているか否か等)、

⑧給与所得の源泉徴収の有無、労働保険の適用等

が補充的な判断要素となります。

なお、建設業手間請け従事者及び芸能関係者については、平成8年3月に、昭和60年報告の判断基準をより具体化した「建設業手間請け従事者及び芸能関係者に関する労働基準法の『労働者』の判断基準について」との報告書がされています。

「労働者」性が問題となった判例の1つに、最高裁平成8年11月28日判決があります。

この判例は、自分が所有するトラックを持ち込んで、持ち込み先の会社の指示に従って、その会社の製品の運送業務に従事する、いわゆる持ち込み運転手(傭車運転手)の労働者性が問題となった事案です。

この判例において、最高裁は、

⑴ 会社の運転手に対する業務遂行に関する指示は、原則として、運送物品、運送先及び納入時刻に限られ、運転経路、出発時刻、運転方法等には及ばず、また、一回の運送業務を終えて次の運送業務の指示があるまでは、運送以外の別の仕事が指示されることはなかったこと、

⑵ 勤務時間は、同社の一般の従業員のように始業時刻及び終業時刻が定められていたわけではなく、当日の運送業務を終えた後は、翌日の最初の運送業務の指示を受け、その荷積みを終えたならば帰宅することができ、翌日は出社することなく、直接最初の運送先に対する運送業務を行うこととされていたこと、

⑶ 報酬は、トラックの積載可能量と運送距離によって定まる運賃表により出来高が支払われていたこと、

⑷ 運転手の所有するトラックの購入代金、ガソリン代、修理費、運送の際の高速道路料金等は、すべて運転手が負担していたこと、

⑸ 報酬の支払に当たっては、所得税の源泉徴収や社会保険及び雇用保険の保険料の控除はされておらず、運転手は、報酬を事業所得として確定申告をしていたこと、

をふまえ、

運転手は、トラックを所有し、自己の危険と計算の下に運送業務に従事していたものであるうえ、会社は、運送という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻の指示をしていた以外には、運転手の業務の遂行に関し、特段の指揮監督を行っていたとはいえず、時間的、場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに緩やかであり、会社の指揮監督の下で労務を提供していたと評価するには足りないものといわざるを得ない。そして、報酬の支払方法、公租公課の負担等についてみても、労働基準法上の労働者と評価することはできない。

運転手が専属的にその会社の運送業務に携わっており、同社の運送係の指示を拒否する自由はなかったこと、毎日の始業時刻及び終業時刻は、運送係の指示内容のいかんによって事実上決定されることになること、運賃表に定められた運賃は、トラック協会が定める運賃表による運送料よりも一割五分低い額とされていたことという事情があるとしても、労働者性を肯定するには足りない。

として、本件の持ち込み運転手の労働者性を否定しました。

労基法11条の「労働者」性が問題となった別の判例としては、最高裁平成17年6月3日判決もあります。。

この判例は、奨学金という名目で月額6万円の金員と1回あたり1万円の副直手当の支給を受けて大学病院で臨床研修をしていた研修医の労働者性が問題となった事案です。

最高裁は、

臨床研修は、医師の資質の向上を図ることを目的とするものであり、教育的な側面を有しているが、プログラムに従って、指導医の指導のもとに、研修医が医療行為に従事することを予定しており、研修医が医療行為に従事する場合は、病院のための労務の提供という側面を不可避的に有し、病院の指揮監督のもとにこれを行ったと評価できる場合は労基法上の「労働者」に当たる

という前提のもとに、

当該研修医は、病院が定めた時間及び場所において、指導医の指示に従って、病院の患者に対して医療行為を行っていたこと、

奨学金という名目で金銭の支払いを受け、かつ、これについて給与所得として源泉徴収を受けていたこと

をふまえ、当該研修医は病院の指揮命令のもとで労務の提供をしたものといえるとし、労働者性を肯定しました。

そのほか、元請会社が受注したマンションの建設工事につき下請会社が請け負っていた内装工事に従事してた際に負傷したという事案において、この大工の労基法11条の「労働者」該当性が問題となった判例として、最高裁平成19年6月28日判決があります。

最高裁は、

⑴ 大工は、仕事の内容について、下請会社から寸法、仕様等につきある程度細かな指示を受けていたものの、具体的な工法や作業手順の指定を受けることはなく、自分の判断で工法や作業手順を選択することができたこと。

⑵ 大工は、作業の安全確保や近隣住民に対する騒音、振動等への配慮から所定の作業時間に従って作業することを求められていたものの、事前に下請会社の現場監督に連絡すれば、工期に遅れない限り、仕事を休んだり、所定の時刻より後に作業を開始したり所定の時刻前に作業を切り上げたりすることも自由であったこと。

⑶ 大工は、当時、下請会社以外の仕事をしていなかったが、これは、下請会社、この大工を引きとどめておくために、優先的に実入りの良い仕事を回し、仕事がとぎれないようにするなど配慮し、大工自身も、下請会社の下で長期にわたり仕事をすることを希望して、内容に多少不満があってもその仕事を受けるようにしていたことによるものであり、下請会社は、大工に対し、他の工務店等の仕事をすることを禁じていたわけではなく、また、大工が下請会社の仕事を始めてから負傷するまでに、約8か月しか経過していなかったこと。

⑷ 大工と下請会社との報酬の取決めは完全な出来高払の方式が中心とされ、下請会社から提示された報酬の単価につき協議し、その額に同意した者が工事に従事することとなっていたこと。大工は請求書によって報酬の請求をしていたこと。また、報酬は,下請会社の従業員の給与よりも相当高額であったたこと。

⑸ 大工は、一般的に必要な大工道具一式を自ら所有し、これらを現場に持ち込んで使用していたこと。

⑹ 大工は、下請会社の就業規則及びそれに基づく年次有給休暇や退職金制度の適用を受けていないこと。国民健康保険組合の被保険者となっており、下請会社を事業主とする労働保険や社会保険の被保険者となっていないこと。下請会社は、大工の報酬について給与所得として所得税の源泉徴収をしていなかったこと。

という事実関係のもとでは、大工は、下請会社の指揮監督の下に労務を提供していたものと評価することはできず,報酬は、仕事の完成に対して支払われたものであって、労務の提供の対価として支払われたものとみることは困難であり、自己使用の道具の持込み使用状況、下請会社に対する専属性の程度等に照らしても、労働基準法上の労働者に該当しないと判断しました。

Last Updated on 2023年11月23日 by takemura_jun