立川の弁護士「竹村淳」が専門的観点から執筆 法律コラム

労契法20条の不合理性の判断方法ー日本郵便事件(東京地裁平成29年9月14日判決)

コラム2018-01-29

労契法20条の不合理性の判断方法ー日本郵便事件(東京地裁平成29年9月14日判決)

1 事案の概要

 原告は、被告との間で期間の定めのある労働契約を締結している者である。

 原告は、被告との間で期間の定めのない労働契約を締結いている者(正社員)と同一内容の業務に従事しているにもかかわらず、手当等の労働条件において差異があり、このことは労働契約法20条に違反するとして、被告の就業規則等の規定の一部が原告にも適用される労働契約上の地位にあることの確認と、正社員の諸手当との差額の支払いを求めた。

2 裁判所の判断

不合理と認められるものか否かの判断の構造

 労契法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違について、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して、「不合理と認められるものであってはならない」と規定し、「合理的でなければならない」との文言を用いていないことに照らせば、同条は、問題となっている労働条件の相違が不合理と評価されるかどうかを問題としているのであって、合理的な理由があることまで要求する趣旨ではない。そして、労契法20条の不合理性は、個々の労働条件ごとに判断すべきである。

原告と比較すべき被告の正社員

新人事制度

 原告ら時給制契約社員は、外務事務及び内務事務のうち、特定の定型業務のみに従事し、担当業務が変更されることは極めて例外的であり、班長・副班長として班を総括することや、各社員の業務やシフトを管理する業務を行わず、原則として配置転換はなく、昇任昇格も予定されていないなど、担当業務の種類や異動等の範囲が限定されている。
 他方、被告の社員は、新人事制度の下では、総合職、地域基幹職及び新一般職の各コースに分かれており、各コースは採用時に区分され、原則として在職中のコースの変更はなく、新一般職は、外務事務及び内務事務の標準的な業務に従事し、1級担当者のままであり、上位級の課長や郵便局長等への昇任昇格は予定されておらず、配置転換は転居を伴わない範囲内でその可能性があるにとどまるなど、担当業務や異動等の範囲が限定されている。
 そうすると、原告ら契約社員と労働条件を比較すべき正社員は、担当業務や異動等の範囲が限定されている点で類似する新一般職とするべきである。

旧人事制度

 旧人事制度においては、正社員は、「管理者・役職者」、「主任・一般」、「再雇用」に分類され、職群として企画職群、一般職群(旧一般職)及び技能職群の3つに分かれており、このうち旧一般職は、1級担当者、2級主任、3級課長代理、4級統括課長・課長までの4等級の昇格昇任が予定されており、業務上の都合又は緊急的な業務応援により、出向、転籍又は就業場所若しくは担当する職務の変更及び配置転換等が予定されていることが認められる。そして、旧一般職の中で昇任昇格が事実上限定されていることや、人事異動の範囲が限定されるコースやグループ等があったことを認めるに足りる証拠はない。
 そうすると、旧人事制度においては、原告ら時給制契約社員と労働条件を比較すべき正社員は、旧一般職とするのが相当である。

正社員と契約社員との職務の内容等に関する相違について

ア 職務の内容の相違

 正社員のうち旧一般職及び地域基幹職と時給制契約社員との間には、職務の内容及び配置の変更の範囲に大きな相違があり、新一般職と時給制契約社員との間には一定の相違があることが認められる。

イ 職務の内容及び配置の変更の範囲に関する相違

 正社員のうち旧一般職及び地域基幹職と時給制契約社員との間には、職務の内容及び配置の変更の範囲に大きな相違があり、新一般職と時給制契約社員との間にも、一定の相違があるということができる。制契約社員との間にも、一定の相違があると認められる。

ウ 小括

 以上の諸事情を総合考慮すると、正社員のうち旧一般職及び地域基幹職と時給制契約社員との間には、職務の内容及び配置の変更の範囲に大きな相違があり、新一般職と時給制契約社員との間にも、一定の相違があると認められる。

各労働条件の相違の不合理性

ア 外務業務手当

 正社員に支給される外務業務手当が時給制契約社員には支給されないという相違があるものの、両者の間には、職務の内容並びに職務の内容及び配置の変更の範囲に大きな又は一定の相違がある上、正社員には長期雇用を前提とした賃金制度を設け、短期雇用を前提とする契約社員にはこれと異なる賃金体系を設けることは、企業の人事上の施策として一定の合理性が認められるところ、外務業務手当は、前記認定に係る制定の経緯から明らかなとおり、職種統合による賃金額の激変を緩和するため正社員の基本給の一部を手当化したものであり、同手当の支給の有無は、正社員と契約社員の賃金体系の違いに由来するものであること、その具体的な金額も、労使協議も踏まえた上で、統合前後で処遇を概ね均衡させる観点で算出されたものであること、郵便外務事務に従事する時給制契約社員については、時給制契約社員の賃金体系において、外務加算額という形で、外務事務に従事することについて別途反映されていることが認められ、これらの諸事情を総合考慮すれば、正社員と時給制契約社員の外務業務手当に関する相違は、不合理であるとは認められない。

イ 年末年始勤務手当

 年末年始の期間における労働の対価として一律額を基本給とは別枠で支払うという年末年始勤務手当の性格等に照らせば、長期雇用を前提とした正社員に対してのみ、年末年始という最繁忙時期の勤務の労働に対する対価として特別の手当を支払い、同じ年末年始の期間に労働に従事した時給制契約社員に対し、当該手当を全く支払わないことに合理的な理由があるということはできない。もっとも、年末年始勤務手当は、正社員に対する関係では、定年までの長期間にわたり年末年始に家族等と一緒に過ごすことができないことについて長期雇用への動機付けいう意味がないとはいえないことから、正社員のように長期間の雇用が制度上予定されていない時給制契約社員に対する手当の額が、正社員と同額でなければ不合理であるとまではいえない。
 したがって、年末年始勤務手当に関する正社員と時給制契約社員との間の相違は、同社員に対して当該手当が全く支払われないという点で、不合理なものであると認められる。

ウ 早出勤務等手当

 正社員に対しては勤務シフトに基づいて早朝、夜間の勤務を求め、時給制契約社員に対しては募集や採用の段階で勤務時間帯を特定して採用し、特定した時間の勤務を求めるという点で、両者の間には職務の内容等に違いがあることから、正社員に対しては、社員間の公平を図るため、早朝勤務等手当を支給するのに対し、時給制契約社員に対して支給しないという相違には、相応の合理性があるといえる。また、時給制契約社員については、早朝・夜間割増賃金が支給されている上、時給を高く設定することによって、早出勤務等について賃金体系に別途反映されていること、類似の手当の支給に関して時給制契約社員に有利な支給要件も存在することからすれば、早出勤務等手当における正社員と時給制契約社員との間の相違は、不合理であると認めることはできない。

エ 祝日給

 祝日に勤務することへの配慮の観点からの割増しについては、正社員と時給制契約社員との間に割増率(100分の35)の差異はないこと、正社員に対する祝日給については、正社員は祝日も勤務日とされており、昭和24年以降、祝日に勤務しない常勤職員(当時の国家公務員)にも勤務したものと同額の賃金が支払われていたことや、平成19年の郵政民営化の際、郵政民営化法第173条に基づき、民営化前の労働条件及び処遇に配慮する必要があったこと、国家公務員についても同様の支給形態が採用されていることなどに基づくものであり、正社員の賃金体系に由来する正社員間の公平のために設けられたものであること、これに対し、時給制契約社員については、元々実際に働いた時間数に応じて賃金を支払う形態が採られており、勤務していない祝日にその対価としての給与が支払われる理由がないことなどを踏まえると、正社員と時給制契約社員の祝日給に関する相違は、不合理と認めることはできない。

オ 夏期年末手当

 賞与は、労使交渉において、基本給に代わり、労働者の年収額を直接に変動させる要素として機能している場合があることからすると、基本給と密接に関連する位置付けの賃金であるといえるところ、本件の夏期年末手当も、年ごとの財政状況や会社の業績等を踏まえて行われる労使交渉の結果によって、その金額の相当部分が決定される実情にあることは前判示のとおりであり、その意味で、基本給と密接に関連する賞与の性質を有する手当である。そうすると、被告の正社員である新一般職又は旧一般職と時給制契約社員との間には、職務の内容並びに職務の内容及び配置の変更の範囲に大きな又は一定の相違があることから、基本給と密接に関連する夏期年末手当について相違があることは一定の合理性があること、賞与は、対象期間における労働の対価としての性格だけでなく、功労報償や将来の労働への意欲向上としての意味合いも有するところ、夏期年末手当も同様の意味合いを有することからすると、長期雇用を前提として、将来的に枢要な職務及び責任を担うことが期待される正社員に対する同手当の支給を手厚くすることにより、優秀な人材の獲得や定着を図ることは人事上の施策として一定の合理性があること、時給制契約社員に対しても労使交渉の結果に基づいた臨時手当が支給されていることなどの事情を総合考慮すれば、正社員の夏期年末手当と時給制契約社員の臨時手当に関する算定方法等の相違は、不合理と認めることはできない。

カ 住居手当

 旧一般職と時給制契約社員との間の住居手当の支給に関する相違は、不合理と認めることはできない。
 これに対し、新一般職に対しては、転居を伴う可能性のある人事異動等が予定されていないにもかかわらず、住居手当が支給されているところ、同じく転居を伴う配置転換等のない時給制契約社員に対して住居手当が全く支給されてないことは、先に述べた人事施策上の合理性等の事情を考慮に入れても、合理的な理由のある相違ということはできない。もっとも、正社員に対する住居手当の給付は、住居費の負担を軽減することにより正社員の福利厚生を図り、長期的な勤務に対する動機付けを行う意味も有することからすると、正社員のように長期間の雇用が制度上予定されていない時給制契約社員に対する住居手当の額が、正社員と同額でなければ不合理であるとまではいえないというべきである。
 以上によれば、新人事制度が導入された平成26年4月以降の住居手当に関する新一般職と時給制契約社員との間の相違は、同社員に対して同手当が全く支払われないという点で、不合理であると認められる。

キ 夏季冬季休暇

 夏期冬期休暇は、その時期や日数については、とりわけ職務の内容や繁忙期による影響を受けると考えられるものの、職務の内容等の違いにより、制度としての夏期冬期休暇の有無について差異を設けるべき特段の事情がない限り、時給制契約社員についてだけ、制度として夏期冬期休暇を設けないことは、不合理な相違というべきである。
 これを本件についてみるに、正社員と時給制契約社員とを比較すると、最繁忙期が年末年始の時期であることには差異がなく、他の前判示に係る職務の内容等の相違を考慮しても、取得要件や取得可能な日数等について違いを設けることは別として、時給制契約社員に対してのみ夏期冬期休暇を全く付与しない合理的な理由は見当たらない。
 したがって、夏期冬期休暇に関する正社員と時給制契約社員との間の相違は、不合理であると認められる。

ク 病気休暇

 病気休暇が労働者の健康保持のための制度であることに照らせば、時給制契約社員に対しては、契約更新を重ねて全体としての勤務期間がどれだけ長期間になった場合であっても、有給の病気休暇が全く付与されないことは、前判示に係る職務の内容等の違い等に関する諸事情を考慮しても、合理的理由があるということはできない。
したがって、病気休暇に関する正社員と時給制契約社員との間の相違は、不合理なものであると認められる。

ケ 夜間特別勤務手当

 正社員については、シフト制勤務により早朝、夜間の勤務をさせているのに対し、時給制契約社員については、募集や採用の段階で勤務時間帯を特定した上で雇用契約を締結し、その特定された時間の勤務を求めているという意味で職務内容等に違いがあり、その違いに基づき、正社員についてのみ社員間の公平を図るために夜間特別勤務手当を支給することは、相応の合理性があるといえるから、夜間特別勤務手当における正社員と契約社員間の相違は、不合理なものと認めることはできない。

コ 郵便外務・内務業務精通手当

 正社員である新一般職又は旧一般職と時給制契約社員の間には、職務の内容並びに職務の内容及び配置の変更の範囲に大きな又は一定の相違がある上、正社員には長期雇用を前提とした賃金制度を設け、短期雇用を前提とする時給制契約社員にはこれと異なる賃金体系を設けることは、企業の人事上の施策として一定の合理性が認められるところ、郵便外務・内務業務精通手当は、正社員の基本給及び手当の一部を原資に郵便外務・内務業務精通手当として組み替える方法により、正社員に対して能力向上に対する動機付けを図ったものであり、同手当の支給の有無は、正社員と契約社員の賃金体系の違いに由来するものであること、郵便外務・内務業務精通手当は、労使協議も経た上で新設されたものであること、時給制契約社員については、資格給の加算により担当職務への精通度合いを基本給(時給)に反映させていることなどの諸事実を総合考慮すれば、正社員と時給制契約社員の郵便外務・内務業務精通手当に関する相違は、不合理なものと認めることはできない。

労基法20条の効力

 労契法20条は、訓示的規定ではなく、同条に違反する労働条件の定めは無効というべきであり、その定めに反する取扱いには、民法709条の不法行為が成立し得ると解される。
 しかし、労契法20条の法的効果として、有期契約労働者の労働条件が無期契約労働者の労働条件によって自動的に代替されることとなるか否か、すなわち、同条が補充的効力を有するか否かについては、同条に関して同法12条や労働基準法13条のように補充的効力を定めた明文の規定がないこと、無効とされた労働条件の不合理性の解消は、使用者の人事制度全体との整合性を念頭に置きながら、有期契約労働者と無期契約労働者の想定される昇任昇格経路や配置転換等の範囲の違いなどを考慮しつつ、従前の労使交渉の経緯も踏まえた労使間の個別的あるいは集団的な交渉の結果も踏まえて決定されるべきであることに照らし、補充的効力は認められない。
 もっとも、労契法20条に補充的効力がないとしても、関係する就業規則、給与規程等の合理的解釈の結果、有期労働契約者に対して、無期契約労働者の労働条件を定めた就業規則、給与規程等の規定を適用し得る場合には、合理的解釈を通じて正社員の労働条件を適用する余地がある。
 これを本件についてみるに、被告においては、正社員に適用される就業規則及び給与規程等と契約社員に適用される就業規則及び給与規程等が別個独立に存在し、前者が被告の全従業員に適用されることを前提に、契約社員については後者がその特則として適用されるという形式とはなっていないから、就業規則、給与規程等の合理的解釈として、正社員の労働条件が有期契約社員に適用されると解することはできない。
 その一方で、原告らの主張する正社員と時給制契約社員との労働条件の相違のうち、年末年始勤務手当、住居手当、夏期冬期休暇及び病気休暇についての相違は、平成25年4月1日以降(ただし、住居手当は平成26年4月以降。)は、労契法20条に違反するものであり、同日以降の原告らに対する各手当の不支給は、原告らに対する不法行為を構成する。

原告らの損害

 

 有期契約労働者に当該労働条件が全く付与されていないこと、又は無期契約労働者との間の給付の質及び量の差異をもって不合理であると認められる労働条件の場合には、損害の算定に当たっても、前判示に係る労契法20条違反とされた有期契約労働者の労働条件の不合理性をどのような形で解消すべきかという観点から検討する必要がある。すなわち、有期契約労働者に対し、労契法20条に違反しない形で当該労働条件を付与するためには、使用者の人事制度全体との整合性を念頭に置きながら、有期契約労働者と無期契約労働者の想定される昇任昇格の経路や配置転換等の範囲の違い等を考慮しつつ、労使間の個別的あるいは集団的交渉の経緯等も踏まえて、職務の内容の相違等に照らして不合理とはならない限度の労働条件を付与すべきところ、これを損害の公平な分担の理念に基づき現実の損害を填補するという損害の算定の面からみると、有期契約労働者に対して支給されている不合理とされた手当等の額と、上記の過程を経て決定される手当等の額との差額をもって損害と認めるべきこととなる。
 しかしながら、上記の種々の要素を踏まえて決定される給付されるべき手当額を証拠に基づき具体的に認定することは、その決定過程に照らして極めて困難であるといわざるを得ない
 本件の年末年始勤務手当及び住居手当については、いずれも、正社員に対する手当額と差異があることをもって直ちに不合理と認められたものではなく、時給制契約社員に対して当該労働条件が全く付与されていないことをもって不合理であると認められることは前判示のとおりであるので、各手当に関して原告らに損害が生じたことは認められるものの、損害の性質上、その額を立証することが極めて困難であるから、民事訴訟法248条に従い、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定すべきものである。
 年末年始勤務手当の額は、12月29日から31日までは1日4000円、1月1日から3日までは1日5000円であるところ、正社員に対する支給額は、正社員の業務内容、職務上の地位や基本給の額にかかわらず定額であること、年末年始勤務手当は、年末年始という特別の期間に労働に従事したことに対する対価であり、手当額が正社員一律の定額となっていることなどの事情は、時給制契約社員に対する手当額を正社員と同額とする方向に働く事情である一方で、正社員に対する同手当の給付には、長期雇用を前提とする正社員に対する動機付けという要素がないとはいえず、有期契約労働者は制度上は長期雇用が前提とされていないことなどの前判示に係る諸事情を考慮すると、正社員に対する支給額全額を損害と認めることはできず、本件に顕れた一切の事情を考慮し、旧一般職及び新一般職に対する支給額の8割相当額を損害と認めるのが相当である。

3 弁護士竹村淳のコメント

 本判決の示した労契法20条の判断枠組みは新たなものではありませんが、比較対象となる正社員を正社員全体ではなく、限定された範囲の正社員としたこと、そして、労働条件の不合理性の判断にあたって、そのような労働条件が設定された経緯について詳細に検討しているところに特徴があるように思われます。

 また、損害額について、民訴法248条を適用し、正社員に対する支給額の一定割合を損害としたことも、注目すべき点です。

立川の弁護士竹村淳(オレンジライン法律事務所)
当記事は平成30年1月29日現在の法律に基づき執筆しています。

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