立川の弁護士「竹村淳」が専門的観点から執筆 法律コラム

採用内定取消しが認められるボーダーライン、ご存知ですか?その2ー最高裁昭和54年7月20日判決(大日本印刷事件)

コラム2018-03-18

採用内定取消しが認められるボーダーライン、ご存知ですか?その2ー最高裁昭和54年7月20日判決(大日本印刷事件)

前回の記事は採用内定の取消しが認められる基準について書きましたが、今回の記事は採用内定取消しに関する裁判例を紹介します。

今回の記事で紹介する裁判例は、最高裁昭和54年7月20日判決(大日本印刷事件)です。

・事案の概要

Xは、某大学の学生であり、翌年3月に卒業予定であった。

Xは大学の推薦を受けてY社の求人に応募し、採用内定を受けた。採用内定通知書には誓約書が同封されていたので、Xは所定の事項を記入のうえ、誓約書をY社に返送した。その誓約書の内容は以下のようなものであった。

この度御選考の結果、採用内定の御通知を受けましたことについては左記事項を確認の上誓約いたします
    記
一、本年三月学校卒業の上は間違いなく入社致し自己の都合による取消しはいたしません
二、左の場合は採用内定を取消されても何等異存ありません
① 履歴書身上書等提出類の記載事項に事実と相違した点があつたとき
② 過去に於て共産主義運動及び之に類する運動をし、又は関係した事実が判明したとき
③ 本年三月学校を卒業出来なかつたとき
④ 入社迄に健康状態が選考日より低下し勤務に堪えないと貴社において認められたとき
⑤ その他の事由によつて入社後の勤務に不適当と認められたとき

Xは、Y社から採用内定通知を受けた後、大学にその旨を報告するとともに、大学からの推薦をを受けて求人募集に応募していた某社に対し応募を辞退することを通知し、大学も推薦を取り消した。

Y社は、Xに対し、会社の近況報告等のパンフレットを送付するとともに、Xの近況報告書を提出するように指示したので、Xは、近況報告書を作成してY社に送付した。

ところが、Y社は、2月12日、突如として、Xに対し、採用内定の取消しを通知した。取消通知書には取消しの理由は記載されていなかった。

XはY社に就職できると信じ、他の企業への応募もせず過ごしており、また、採用内定取消通知も遅かったため、他の企業への就職も事実上不可能となったため、大変驚いた。Xは大学を通じてY社と交渉したが、何らの成果も得られず、大学を卒業した。

そこで、XはY社の従業員でたる地位を有することの確認等を求めて提訴した。

訴訟中、Y社は、Xの採用内定を取り消した理由につき、グルーミーな(陰気な)印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかも知れないので採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかったので取り消したという説明をした。

・最高裁の判断

採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかったことを考慮すると、Y社からの募集(申込みの誘引)に対し、Xが応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対するY社からの採用内定通知は、申込みに対する承諾であって、Xの誓約書の提出とあいまって、これにより、XとY社との間に、Xの就労の始期を大学卒業直後とし、それまでの間、誓約書記載の5項目の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したというべきである。

もっとも、解約権の留保は、新卒者の採用にあたり、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力等につき必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に収集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解され、合理性をもつものとしてその効力を肯定することができるが、他方、雇用契約の締結にあたっては、一般的に、企業が一個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあることを考慮するとき、解約権の行使は、このような解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認することができる場合にのみ許されるものと解すべきである。

本件の採用内定取消事由の中心をなすものは、「Xはグルーミーな印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかも知れないので採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかった」というものである。

しかし、グルーミーな印象であることは当初からわかっていたことであるから、Y社としてはその段階で調査を尽くせば、従業員としての適格性の有無を判断することができたのに、不適格と思いながら採用を内定し、その後、不適格性を打ち消す材料が出なかったので内定を取り消すということは、解約権留保の趣旨、目的に照らして、社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用というべきである。このような事由をもつて、誓約書の確認事項二、⑤所定の解約事由にあたるとすることはできない。

・竹村のコメント

この裁判例は、労働法を勉強した人であれば大多数の方が知っているのではないかという超有名な裁判例です。

この裁判例のポイントは、下線を引いていますが、「解約権の留保は、新卒者の採用にあたり、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力等につき必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に収集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものであり、解約権の行使は、このような解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認することができる場合のみ許される」という基準を明らかにしたという点にあります。

採用内定を出す企業側としては、解約事由はできる限り留保しておきたいと考えるところですが、あくまでも、内定取消しができるのは「解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認することができる場合のみ」であって、採用内定するにあたって解約事由を多数つけておけばよいというものではないことを理解しておく必要があります。

立川の弁護士竹村淳(オレンジライン法律事務所)
当記事は平成30年3月18日現在の法律に基づき執筆しています。

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