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注目労働裁判例・大阪高判平成28年7月26日(労契法20条の「不合理と認められるもの」―ハマキョウレックス事件)②

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立川弁護士 竹村淳

弁護士 竹村 淳 

オレンジライン法律事務所の代表弁護士。
東京都立川市を中心とした地域で活動している弁護士です。
労使紛争、債権回収、賃貸借契約、契約書作成などの企業の法律問題のほか、相続問題や交通事故など個人の法律問題も幅広く法的サポートを提供しており、クライアントのニーズに応じた柔軟なアドバイスを行っています。弁護士としての豊富な経験を活かし、複雑な案件にも迅速かつ的確に対応。ブログでは、日々の法的トピックや事例紹介を通じて、わかりやすく実務的な法律情報を提供しています。

本事件の最高裁判決について記事を書きました。こちらをご覧ください。

平成28年7月26日の大阪高等裁判所の判決の概要は以下のとおりです(事実関係及び原審の判断はこちらをご参照ください)。

1 正社員と契約社員との間の賃金等の労働条件の相違の理由

正社員のドライバーの業務内容と契約社員のドライバーの業務内容は大きな相違があるとは認められない。

しかし、正社員と契約社員との間には、職務遂行能力の評価や教育訓練等を通じた人材の育成等による等級・役職への格付け等を踏まえた広域移動や人材登用の可能性といった人材活用の仕組みの有無に基づく相違が存する。

したがって、「不合理と認められるもの」に当たるか否かについて判断するに当たっては、労働契約法20条所定の考慮事情を踏まえて、個々の労働条件ごとに慎重に検討しなければならない。

2 無事故手当

無事故手当は優良ドライバーの育成や安全な輸送による顧客の信頼の獲得を目的とするものであると考えられるが、このような目的は、正社員の人材活用の仕組みとは直接の関連性を有するものではなく、むしろ、正社員のドライバー及び契約社員のドライバーの両者に対して要請されるべきものである。

したがって、正社員のドライバーに対してのみ無事故手当を支給し、契約社員のドライバーに対しては同手当を支給しないことは、期間の定めがあることを理由とする相違であり、労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」に当たる。

3 作業手当

作業手当は、正社員給与規程上、特殊業務に携わる従業員に対して支給されるものであるとされている。

この点、会社は、作業手当は、元来、乗務員の手積み、手降ろし作業に対応して支給されていたものであるが、現在は、正社員に一律に支給されており、実質的に基本給としての性質を有しているものであるから、その支給不支給の区別が不合理であるということはできないと主張する。

しかし、過去に手で積み降ろしの仕事をしていたドライバーが正社員のみであり、契約社員のドライバーがかかる仕事に従事したことはないとはいえないし、作業手当が現在は実質上基本給の一部をなしている側面があるとしても、正社員給与規程において、特殊業務に携わる者に対して支給する旨を明示しているのであるから、作業手当を基本給の一部と同視することはできない。

そうすると、正社員のドライバーに対してのみ作業手当を支給し、契約社員のドライバーに対しては同手当を支給しないことは、期間の定めがあることを理由とする相違というほかなく、労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」に当たる。

4 給食手当

給食手当は、正社員給与規程上、従業員の給食の補助として支給するものとされている。

この点、会社は、長期雇用関係の継続を前提とする正社員の福利厚生を手厚くすることによって,有能な人材の獲得・定着を図ることを目的とするものであり、その支給不支給の区別が不合理であるということはできないと主張する。

しかし、給食手当は、正社員給与規程において、あくまで従業員の給食の補助として支給されるものとされており、正社員の職務の内容や当該職務の内容及び変更の範囲とは無関係に支給されるものである。

会社主張の目的自体は、経営ないし人事労務上の判断として一定の合理性を有するものと理解できるが、給食手当はあくまで給食の補助として支給されるものである以上、正社員に対してのみ給食手当を支給し,契約社員に対して同手当を支給しないことは、期間の定めがあることを理由とする相違というほかなく、労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」に当たる。

5 住宅手当

原告は、住宅手当は、会社の業務に関係なく支給される生活補助的なものであるから、正社員と契約社員との間で支給に相違を設けることに合理的理由はないと主張する。一方、会社は、住宅手当は、長期雇用関係を前提とした配置転換のある正社員への住宅費用の援助及び福利厚生を手厚くすることによって、有能な人材の獲得・定着を図ることを目的とするものであるから、その支給不支給の区別が不合理であるとはいえないと主張する。

正社員は、転居を伴う配転(転勤)が予定されており、配転が予定されない契約社員と比べて、住宅コストの増大(たとえば、転勤に備えて住宅の購入を控え、賃貸住宅に住み続けることによる経済的負担等)が見込まれることからすると、正社員に対してのみ住宅手当を支給することが不合理であるということはできない。

また、会社が主張する長期雇用関係を前提とした配置転換のある正社員への住宅費用の援助及び福利厚生を手厚くすることによって、有能な人材の獲得・定着を図るという目的自体は、会社の経営ないし人事労務上の判断として相応の合理性を有する。

したがって、正社員に対して住宅手当を支給し、契約社員に対しては同手当を支給しないことが、労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」に当たると認めることはできない。

6 皆勤手当

正社員給与規程によれば、皆勤手当は、乗務員が全営業日を出勤したときに限り,皆勤手当として1万円を支給するとされており、原告が勤務する彦根支店では,該当者には1万円が支給されている。

原告は、皆勤手当は、精勤に対してインセンティブを付与することで精勤を奨励するものと考えられるが、これは会社に精勤すること自体に対して支給されるものであって、皆勤手当を正社員にだけ支給し、契約社員には支給しない扱いをする合理的理由はないと主張する。一方、会社は、皆勤手当は、長期雇用関係を前提として特に正社員の勤労意欲を高めるために正社員に支給されるものであるが、契約社員であっても、時給の増額という形に反映されているのであるから、その支給不支給の区別が不合理であるとはいえないと主張する。

たしかに、皆勤手当は、乗務員が全営業日を出勤したときに支給されるものであり、原告が主張するように、精勤に対してインセンティブを付与して精勤を奨励する側面があることは否定できず、皆勤手当を正社員のドライバーにだけ支給し、契約社員のドライバーには支給しない扱いをすることの合理性を積極的に肯定することは困難であるとも考えられる。

しかし、契約社員就業規則によれば、同規則の適用を受ける嘱託、臨時従業員、パートタイマーとは、雇用期間を定めた雇用契約を締結して雇い入れた者をいい、このうち、臨時従業員及びパートタイマーの雇用契約期間は6か月以内、嘱託の雇用契約期間は1年以内とされ、更に雇用契約を延長する必要がある場合には個別に更新するものとされている。そして,嘱託、臨時従業員及びパートタイマーの給与は、基本給、通勤手当、時間外勤務手当、休日勤務手当及び深夜勤務手当で構成されるところ、基本給は、時間給として職務内容等により個人ごとに定められ、嘱託、臨時従業員及びパートタイマーには、昇給を原則として行わないものの、会社の業績と本人の勤務成績を考慮の上昇給することがあるとされている。

以上のような契約社員就業規則の規定に鑑みると、契約社員が全営業日に出勤した場合は、会社の業績と本人の勤務成績を考慮して昇給することがあり得るほか、有期労働契約の更新時に基本給である時間給の見直し(時間給の増額)が行われることがあり得るのであり、現に、原告の時間給は、1150円から1160円に増額されていることを指摘することができる。

以上の点に照らすと、会社が正社員に対してのみ皆勤手当月額1万円を支給し、契約社員には同手当を支給しない扱いをすることが、労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」に当たると認めることまではできない。

7 通勤手当

正社員に支給される通勤手当は、常時一定の交通機関を利用し、または交通用具(自動車、オートバイ及びこれに準ずるものとし、自転車を除く)を使用して通勤する者を対象とするものであり、会社では、平成25年12月まで、支給額につき相違が存在したが、平成26年1月以降は、正社員及び契約社員の区別なく支給されている。そして、原告に関しては、平成25年12月まで月額3000円の通勤手当が支給されていたが、正社員として支給される場合には月額5000円となるため、2000円の差額が生じていた。

会社は、通勤手当は、配置転換のある正社員に対し、長距離通勤に伴う交通費の援助を目的とするものであり、配置転換がなく、長距離通勤も少ない契約社員との間に金額の差異を設けても、その区別が不合理であるということはできないと主張する。

しかし、通勤手当は、会社に勤務する労働者が通勤のために要した交通費等の全額又は一部を補填する性質のものであり、通勤手当のかかる性質上、本来は職務の内容や当該職務の内容及び変更の範囲とは無関係に支給されるものである。

そうすると、労働契約法20条が施行された平成25年4月から同年12月まで、原告と同じ交通用具利用者で同じ通勤距離の正社員に対しては通勤手当月額5000円を支給し、原告には通勤手当月額3000円を支給することは、期間の定めがあることを理由とする相違というほかなく、同条にいう「不合理と認められるもの」に当たる。

8 労働契約法20条違反の効力

労働契約法20条に違反する労働条件の定めは無効というべきであり、同条に違反する労働条件の定めを設けた労働契約を締結した場合は、民法709条の不法行為が成立する場合がありうる。

しかし、労働契約法は、同法20条に違反した場合の効果として、同法12条や労働基準法13条に相当する規定を設けていないこと、労働契約法20条により無効と判断された有期契約労働者の労働条件をどのように補充するかについては、労使間の個別的あるいは集団的な交渉に委ねられるべきものであることからすれば、裁判所が、明文の規定がないまま、労働条件を補充することは、できる限り控えるべきである。

したがって、関係する就業規則、労働協約、労働契約等の規定の合理的な解釈の結果、有期労働契約者に対して、無期契約労働者の労働条件を定めた就業規則、労働協約、労働契約等の規定を適用し得る場合はともかく、そうでない場合には、不法行為による損害賠償責任が生じ得るにとどまる。

本件では、正社員に適用される正社員就業規則及び正社員給与規程と、契約社員に適用される契約社員就業規則とが独立して存在するのであって、正社員就業規則及び正社員給与規程が全従業員に適用されることを前提に、契約社員については特則として契約社員就業規則に関する規定を適用するような形式を採っていないことからすると、契約社員就業規則及び各雇用契約書で定める労働条件が労働契約法20条に違反する場合に、各規定の合理的な解釈として、正社員就業規則及び正社員給与規程で定める労働条件が適用されることになると解することはできず、不法行為が成立するにとどまる。

Last Updated on 2023年11月23日 by takemura_jun