氏名、性別、生年月日等の個人情報の漏洩と損害賠償請求(最高裁平成29年10月23日判決)
●事案の概要
Yは通信教育等を目的とする会社である。
Yのシステムの開発、運用を行っていた会社の業務委託先の従業員であったAは、Yのデータベースから顧客の個人情報を不正に持ち出し、持ち出した個人情報を複数の名簿業者に売却した。
これにより、Yが管理する未成年者Bの氏名、性別、生年月日、郵便番号、住所、電話番号、保護者名(Xの氏名)(以下、まとめて「本件個人情報」という)が外部に漏洩した。
そこで、XはYに対し、この漏洩により精神的苦痛を被ったとして、損害賠償請求した。
原審(大阪高裁平成28年6月29日判決)は、漏洩によって、Xが迷惑行為を受けているとか、財産的な損害を被ったなど、不快感や不安を超える損害を被ったことについての主張、立証がされていないとして、請求を棄却した。
これに対しXが上告した。
●最高裁の判断
本件個人情報は、Xのプライバシーにかかる情報として法的保護の対象となるというべきであり(最高裁平成15年9月12日判決)、本件の事実関係によれば、漏えいによって、Xは、そのプライバシーを侵害されたといえる。
原審は、プライバシー侵害によるXの精神的損害の有無及びその程度等について十分に審理することなく、不快感等を超える損害の発生についての主張、立証がされていないということのみから直ちにXの請求を棄却すべきとしたが、この原審の判断は、不法行為における損害に関する法令の解釈適用を誤った結果、上記の点について審理を尽くさなかった違法があるといわざるをえない。
●弁護士竹村淳のコメント
最高裁は、最高裁平成15年9月12日判決を引用して、本件個人情報はXのプライバシーにかかる情報として法的保護の対象となるとしましたが、同判決は、大学が講演会の主催者として学生から参加者を募る際に収集した参加申込者の学籍番号、氏名、住所及び電話番号に関する情報が参加申込者のプライバシーにかかる情報として法的保護の対象となるかが問題となった事案において、これらの情報は、大学が個人識別等を行うための単純な情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではないが、このような情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、プライバシーにかかる情報として法的保護の対象となるとしたものです。
過去の判例からすれば、原審のように、不快感等を超える損害の発生についての主張、立証がされていないという理由のみでXの請求を棄却したことは妥当ではなく、最高裁は適切な判断をしたと考えます。
もっとも、最高裁は、本件において「Xは精神的損害が受けた」という判断をしたわけではないことには注意が必要です。
立川の弁護士竹村淳(オレンジライン法律事務所)
当記事は平成30年1月15日現在の法律に基づき執筆しています。
Last Updated on 2023年11月23日 by takemura_jun