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労働基準法136条と有給休暇取得者に対する不利益取扱いの関係(最高裁平成5年6月25日判決・沼津交通事件)

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立川弁護士 竹村淳

弁護士 竹村 淳 

オレンジライン法律事務所の代表弁護士。
東京都立川市を中心とした地域で活動している弁護士です。
労使紛争、債権回収、賃貸借契約、契約書作成などの企業の法律問題のほか、相続問題や交通事故など個人の法律問題も幅広く法的サポートを提供しており、クライアントのニーズに応じた柔軟なアドバイスを行っています。弁護士としての豊富な経験を活かし、複雑な案件にも迅速かつ的確に対応。ブログでは、日々の法的トピックや事例紹介を通じて、わかりやすく実務的な法律情報を提供しています。

労働基準法136条と有給休暇取得者に対する不利益取扱いの関係(最高裁平成5年6月25日判決)

 

1 労働基準法136条と有給休暇取得者に対する不利益取扱いの関係

 

労働基準法136条は、使用者は有給休暇を取得した労働者に対し、賃金の減額等の不利益な取扱いをしないようにしなければならないと規定しています。

この条文によると、有給休暇を取得した労働者に対し不利益な取扱いをすると、その取扱いはすべて違法ということになりそうです。

しかし、この解釈は果たして妥当なのでしょうか。最高裁は、最高裁平成5年6月25日判決(沼津交通事件)で、この問題についての立場を明らかにしました。

 

2 最高裁平成5年6月25日判決(沼津交通事件)

 

この判決の事案は以下のようなものです。

タクシー会社であるY社は、乗務員の出勤率を高めるため、ほぼ交番表(月ごとの勤務予定表)どおり出勤した者に対しては、報奨として、皆勤手当を支給していました。この皆勤手当は、欠勤をした場合は、欠勤が1日の場合は減額、欠勤が2日以上の場合は支給しないものとされており、この欠勤には、有給休暇を含む取扱いとしていました。

Xは有給休暇を取得したため皆勤手当を支給されなかったため、この取扱いは労基法136条に反する違法なものと主張して、提訴しました。

最高裁は、次のとおり、判断して、Xの請求を退けました。

労基法136条は使用者の努力義務を定めたものであって、私法上の効力(不利益取扱いを無効とする効力)を有するものではない。しかし、不利益取扱いの趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、年次有給休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、年次有給休暇を取得する権利の行使を抑制し、労基法が労働者に有給休暇取得の権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるものは、公序良俗(民法90条)に反するものとして、無効となる。

 

3 まとめ

 

労基法136条が努力義務を定めたものにすぎないという点については、批判的な見解は根強いものの、違反した場合に無効とする趣旨であれば、通常はそうなるであろう「不利益な取扱いをしてはならない」という文言ではなく、「不利益な取扱いをしないようにしなければなちない」という文言になっていること、同条が労基法本文ではなく附則にあること等からすると、必ずしもおかしなものではないと考えられます。

もっとも、どのような取扱いが「有給休暇を取得する権利の行使を抑制し、労基法が労働者に有給休暇取得の権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるもの」となるのかについては曖昧であり、有給休暇を取得することに対して何らかの不利益取扱いをする制度を設ける場合は、慎重な検討が必要です。

なお、この点に関連して、最高裁は、有給休暇の取得日の属する期間に対応する賞与の計算上、有給休暇取得日を欠勤として扱うことはできないとする判断をしています(最高裁平成4年2月18日判決・エス・ウント・エー事件)。

 

立川弁護士 竹村淳(オレンジライン法律事務所)
当記事は平成30年7月31日時点の法律に基づき執筆しています。

Last Updated on 2023年11月23日 by takemura_jun