目次
1.従前の民法の規定
改正前の民法は、賃借人の修繕権限についての明確な規定がなく、どのような場合に賃借人が修繕することができるのかについて、必ずしも明らかではありませんでした。
2.改正民法
この点、改正後の民法では、賃借物の修繕が必要である場合において、①賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、または、賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき、もしくは、②急迫の事情があるときは、賃借人に修繕の権限があるとの規定が設けられました(改正民法607条の2)。
3.有益費償還請求権(民法608条)との関係
民法608条は「賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。」と規定し、賃借人が目的物の保存・管理に必要な費用を支出した場合、それに要した費用を賃貸人に請求できる旨を規定しています。
では、賃借人が改正民法607条の2に基づき修繕をした場合、賃借人は賃貸人に対し、修繕に要した費用を請求できるのでしょうか。
この点、法制審議会の議論においては、改正法607条の2に基づき修繕権限が認められるかという問題と、608条に基づき費用の償還を請求できるかという問題は切り離して考えるべきとの見解が示されています。この見解によれば、改正法607条の2に基づき修繕ができるとしても、その費用を賃借人が負担しなければならないことがあるということになります。
4.まとめ
賃貸人の修繕義務の記事でも述べたことですが、改正法607条の2は、賃借人の修繕権限が認められる場合があることを正面から規定したという面では意味のある規定ですが、なお抽象度が高い条文であることは否めません。
修繕をめぐるトラブルを回避するという観点からは、賃借人の修繕権限について、賃貸借契約上で、より明確化することが望ましいといえます。
立川の弁護士竹村淳(オレンジライン法律事務所)
当記事は平成30年12月11日に執筆しています。
Last Updated on 2023年9月21日 by takemura_jun