事案の概要
原告(被処分者)は、被害妄想などの何らかの精神的な不調により、実際には事実として存在しないにもかかわらず、約3年間にわたり加害者集団からその依頼を受けた専門業者や協力者らによる盗撮や盗聴等を通じて日常生活を監視され、これらにより蓄積された情報を共有する加害者集団から職場の同僚らを通じて自己に関する情報のほのめかし等の嫌がらせを受けているとの認識を持っていました。
そのため、原告は、同僚らの嫌がらせにより自らの業務に支障が生じており、自己に関する情報が外部に漏えいされる危険もあると考え、被告(会社)に対し、被害にかかる事実の調査を依頼しました。
しかし、納得できる結果が得られず、被告に休職を認めるよう求めたものの認められず出勤を促すなどされたことから、原告は、自分自身が問題が解決されたと判断できない限り出勤しない旨をあらかじめ被告に伝えたうえで、有給休暇を全て取得した後、約40日間、欠勤を続けました。
そこで、被告は、就業規則上の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤があったとして諭旨退職の懲戒処分をし、これに対し、原告は、この懲戒処分は無効であるとして、裁判所に提訴しました。
判決の概要
このような事実関係のもとで、最高裁は「精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されるところであるから、使用者である上告人としては、その欠勤の原因や経緯が上記のとおりである以上、精神科医による健康診断を実施するなどした上で(記録によれば、上告人の就業規則には、必要と認めるときに従業員に対し臨時に健康診断を行うことが出来る旨の定めがあることがうかがわれる。)、その診断結果等に応じて、必要な場合は、治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべき」として、そのような対応をとっていない本件処分を無効としました。
判決のポイント
精神的な不調があることを会社が把握していたとしても、それについて受診をするかどうかはプライバシーにかかわるものであって本人の意思に委ねられるべきものであるとして、会社が受診を勧めることは不適切であるという考え方もありうるところです。
しかし、この判例は、会社に対し「健康診断を実施するなどした上で」「その診断結果等に応じて、必要な場合は、治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応」を求めました。
精神的な不調を抱える労働者に対し懲戒処分をするあらゆる場合にこのような措置をすることが必要なのかなど、判例の射程ははっきりしない部分がありますが、精神的な不調を抱える労働者に対し懲戒処分をする場合に、治療を勧めるなどの積極的な対応をとることを求めている点は注目するべきでしょう。
Last Updated on 2023年11月23日 by takemura_jun