X工務店は、Y氏から依頼を受け、Y氏の自宅にカーポートを設置する旨の契約をしました。
ところが、
工事の途中でY氏の隣家で火災が発生し、その火が設置中のカーポートに燃え移り、カーポートは溶けて使いものにならなくなってしまいました。
X工務店がY氏に対して「カーポートをもう1回最初から設置し直さなければならなくなったのだから、その分増える費用は支払ってください」と言ったところ、Y氏は「最初からやり直さなければならなくなったのは私のせいではない。費用が余分にかかることになったとしても、私が負担する必要はない。早く設置してくれ」と言っています。
さて、X工務店の言い分とY氏の言い分のどちらが正しいのでしょうか。
解答は「設例の事実関係だけでは判断がつかない」だと思います。
と答えだけ書いても意味がないので解説をします。
この問題は簡単そうに見えて、実はいろいろと複雑な問題を含んでいます。
ということで、まずは民法の規定を確認したいと思います。
民法上、請負契約は「請負人が仕事の完成を約束し、注文者がその成果に対して報酬を支払う契約」であるとされています(民法632条)。
つまり、民法の条文からすると、請負契約を締結した以上、請負人は仕事を完成させる義務を負っているのであり、仕事の途中で目的物が焼失しようが破損しようが、仕事の完成が不可能(例えば、ある機械の修理を頼まれたが、その機械自体が無くなってしまったような場合)にならない限り、仕事を完成させなければならないのです。
したがって、請負人は注文者が工事の続行を求めた場合は、これを拒否することができないということになります。
では、請負人は目的物が焼失したり破損したことによって余分にかかる費用を請求できるのでしょうか。
これについては、請負人は仕事を完成することに対する報酬の金額はあらかじめ決められているのですから、余分に費用がかかったとしても、原則として、当初決めた報酬以上の金額の支払いは請求できないと考えられます。
そうすると、今回のケースでは、X工務店の言い分は全くとおらないのでしょうか?
この点、注目すべきなのは、
説例は「X工務店とY氏はカーポートを設置する旨の契約をしました」としか書いていない点です。
より具体的にいえば、契約の締結にあたって、仕事が完成する前に仕事の滅失あるいは毀損が生じたときに、そのリスクの負担についてどのように定めていたのかがわからないという点です。
このようなリスクは請負人が負担するというのが民法の原則ですが、当事者間の合意によって修正(変更)が可能なのです。
このことは、建設業法上も明らかにされており、建設業法19条は、以下のような規定を設けています。
建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
七 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
これを受けて、
例えば、民間建設工事標準請負契約約款(甲)では、不可抗力によって工事の出来高部分等に損害が生じた場合、その損害が重大なもので、請負人が善良な管理者としての注意をしたと認められるものは、発注者がその損害を負担する(結果として、請負金額の増加を認める)という規定が設けられています(21条)。
以上のとおりであって、「X工務店の言い分は全く通らないのでしょうか」という答えとしては、「仕事が完成する前に仕事の滅失あるいは毀損が生じたときのリスクにつき、Y氏が負うという契約となっている可能性があり、そうであるとすれば、X工務店は、増加せざるをえなくなった費用を請求できる」ということになります。
Last Updated on 2024年3月7日 by takemura_jun