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約款について―民法改正―

この記事を書いた人
立川弁護士 竹村淳

弁護士 竹村 淳 

オレンジライン法律事務所の代表弁護士。
東京都立川市を中心とした地域で活動している弁護士です。
労使紛争、債権回収、賃貸借契約、契約書作成などの企業の法律問題のほか、相続問題や交通事故など個人の法律問題も幅広く法的サポートを提供しており、クライアントのニーズに応じた柔軟なアドバイスを行っています。弁護士としての豊富な経験を活かし、複雑な案件にも迅速かつ的確に対応。ブログでは、日々の法的トピックや事例紹介を通じて、わかりやすく実務的な法律情報を提供しています。

約款について―民法改正―

 

 

1.日常生活を規律する「約款」

 

JR東日本を利用する場合、特急列車が、到着時刻より2時間以上遅れた場合は、特急料金の全額が返還されます。逆にいえば、1時間の遅延では、特急料金は返還(減額)されません。

これは、JR東日本の定める運送約款にそのような定めがあり(具体的には「旅客営業規則」282条)、利用者がその適用を受けるためです。

このように、運送約款を初めとする「約款」は、あまり意識しないうちに、日常生活の多くの場面で、当事者間の法律関係を規律しています。

2.民法改正と「約款」

 

ところが、改正前の民法においては、約款についての規定は全く存在せず、そもそも約款とは何なのか、約款の内容が契約内容となるための要件は何なのか等について、争いがありました。

そこで、今回の民法改正によって、約款についての規定が設けられることになりました。

3.「約款」の定義

 

まず、約款の定義につき、改正法は「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的な取引(定型取引)において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」と定義しました(改正法548条の2)。

この定義規定によると、民法上の約款というためには、①ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引に用いられるものであること、②取引内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的な取引に用いられるものであること、③契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項であることが必要となります。

①ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引に用いられるものであること

これによると、特定の者を相手にする取引、例えば、相手方の個性に着目する労働契約は、この取引に該当しないということになります。

②取引内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的な取引に用いられるものであること

これは、少なくとも、取引内容を画一的にすることによって、不特定多数の者に対して、商品やサービスを一定の対価で提供することが成り立つような取引のことを指している(例えば、鉄道や電気)と考えられますが、それ以外にどのような取引まで含むものなのかは必ずしも明確ではありません。この点は今後の議論に委ねられる部分といえるでしょう。

③契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項

これによると、その準備された条項がそのまま契約の内容となることが前提となるので、一方当事者が契約書の雛形を提示し、他方当事者がその内容を検討したうえで契約締結に至るというような場合は、この要件を満たさない(その雛形は「約款」に該当しない)ということになります。

4.「約款」の条項が契約内容となるための要件

 

次に、改正法は、約款の条項が契約内容となるための要件につき、①約款を契約の内容とする旨の合意することまたは②約款を準備した者があらかじめその約款を契約の内容とする旨を相手方に表示することが必要であるとしています(改正法548条の2)。

①は当然といえば当然の規定といえますが、問題は②です。

②の規定は、約款を準備した者があらかじめその約款を契約の内容とする旨を表示していれば、約款の個別の条項の内容を認識していなくとも、その約款の条項が契約の内容となるという強い効果を持つものですが、どのようなことをすれば「あらかじめその約款を契約の内容とする旨を相手方に表示」したといえるのかは、法文からは明らかではありません。

この点は今後の裁判例・学説の集積を待つ部分であるといえるでしょう。

 

立川の弁護士竹村淳(オレンジライン法律事務所)
当記事は平成30年11月26日時点の法律に基づき執筆しています。

Last Updated on 2023年11月23日 by takemura_jun