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民法(相続法)改正ー相続開始後の共同相続人による財産処分への対応

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立川弁護士 竹村淳

弁護士 竹村 淳 

オレンジライン法律事務所の代表弁護士。
東京都立川市を中心とした地域で活動している弁護士です。
労使紛争、債権回収、賃貸借契約、契約書作成などの企業の法律問題のほか、相続問題や交通事故など個人の法律問題も幅広く法的サポートを提供しており、クライアントのニーズに応じた柔軟なアドバイスを行っています。弁護士としての豊富な経験を活かし、複雑な案件にも迅速かつ的確に対応。ブログでは、日々の法的トピックや事例紹介を通じて、わかりやすく実務的な法律情報を提供しています。

民法(相続法)改正ー相続開始後の共同相続人による財産処分への対応

 

1 改正の必要性

 

被相続人の財産は、相続人が複数いるときは、共有となります(民法898条)。しかし、相続人が共有持分を処分した場合に、遺産分割においてどのように処理すべきかという点については、明文の規定がありませんでした。

この点、従前実務においては、遺産分割は遺産分割時に存在する遺産を分割する手続きであると考えられているため、遺産分割前に持分を処分した場合に、処分をしなかった場合と比べて、処分をした者の取得額が大きくなる(逆にいえば、他の相続人の取得額が小さくなる)という問題が発生することが指摘されていました。

相続人が子ABの2名で、遺産が1000万円の土地のみ、Aに対し特別受益にあたる生前贈与500万円をしていたという前提のもとで、Aが第三者に対し土地の持分2分の1(500万円分)で売却したというケースで考えてみます。

この場合、AとBの具体的相続分(特別受益等を考慮したみなし相続財産を基礎として各人の相続分を乗じた相続分から、特別受益を受けた者については特別受益を控除して算定される相続分のこと)は、

A (土地1000万円+特別受益500万円)×2分の1-500万円=250万円

B (土地1000万円+特別受益500万円)×2分の1=750万円

となります。

そうすると、Aが土地持分2分の1の譲渡をしなかった場合は、遺産分割におけるABの取得額は、

A 相続開始時に存在する遺産1000万円×250万円/(250万円+750万円)=250万円

B 1000万円×750万円/(250万円+750万円)=750万円

となります。

Aは生前贈与500万円を受けているので、AもBも、結果的に、750万円を取得できるということになります。

しかし、持分の譲渡をしたときは、従前の実務の考え方によると、遺産分割の対象は遺産分割時に存在する遺産であるため、遺産分割におけるABの取得額は、

A 遺産分割時に存在する遺産500万円×250万円/(250万円+750万円)=125万円

B 500万円×750万円/(250万円+750万円)=375万円

となり、そうすると、ABの実質的な取得額は、

A 遺産分割125万円+分割前の処分500万円+生前贈与500万円=1125万円

B 遺産分割375万円

となってしまい、ABで大きな差が出てきてしまうことになります。

このような帰結が不当であることは明らかであり、この不都合を解消するための解釈論は示されていたものの、この不公平を解消するための決定的なものはありませんでした。

 

2 改正法

 

そこで、改正法は、相続人が遺産分割前に遺産を処分した場合、処分された財産が遺産分割の時点で遺産として存在するものとみなすこととし、遺産分割前に処分された遺産も含めて遺産分割ができるようにしました(改正法906条の2)。

 

3 まとめ

 

改正法によると、遺産分割をするにあたっては、相続開始後の相続人による財産処分について確認する必要が生じ、遺産分割手続きの複雑化を招くおそれがあるといえます。しかし、相続手続きにおいて最も重視すべきは相続人間の公平であると思われ、本改正はそれを実現するための改正であるといえ、積極的に評価されるべきでしょう。

 

4 改正法の条文

 

(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)
第九百六条の二 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。

 

立川弁護士 竹村淳(オレンジライン法律事務所)
当記事は平成30年7月24日時点の法律に基づき執筆しています。

 

Last Updated on 2023年11月23日 by takemura_jun