民法1025条本文は「撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。」と規定しています。そうすると、遺言を撤回する遺言をさらに別の遺言で撤回したとしても、撤回する遺言が詐欺または強迫によってされた場合でない限り、当初の遺言の効力は復活しないことになりそうです。
しかし、詐欺または強迫によってなされた場合以外、いかなる場合も、当初の遺言の効力は復活しないと解するべきなのでしょうか。
この点が問題となった判例が、最高裁平成9年11月13日判決です。
この判例の事案は、以下のようなものです。
被相続人は当初、その財産の大半をXに相続させる旨の遺言を作成しました。
その後、被相続人は、多くの遺産をX以外の者に相続させる内容の遺言を作成し、その遺言の末尾には「この遺言書以前に作成した遺言書はその全部を取り消します」との記載がありました。
ところが、被相続人は、その後、第2の遺言は全て無効とし、第1の遺言を有効とするという内容の遺言を作成しました。
Xが第1の遺言が有効であることを前提に相続登記をしたところ、Yは第1の遺言は第2の遺言によって撤回されたのであるから、無効であると主張し、提訴しました。
この問題につき、最高裁は「遺言書の記載に照らし、遺言者の意思が原遺言の復活を希望するものであることが明らかなときは、民法一〇二五条ただし書の法意にかんがみ、遺言者の真意を尊重して原遺言の効力の復活を認めるのが相当」であるとしたうえで、本件においては、被相続人が第1の遺言の復活を希望していたことは明らかであるとして、遺言の効力の復活を認めました。
民法1025条本文の文言からすると、復活しないということになりそうですが、同条が復活しないとした趣旨は、遺言を撤回する遺言を撤回したとしても、もともとの遺言を復活させる意思があるとは限らないということにあると考えられます。また、同条但書は、詐欺・強迫による撤回行為の取消しの場合は復活を認めているところ、その趣旨は、そのような場合でも復活を認めないとすれば、遺言者の意思に反することになるからであると考えられます。
そうであるならば、当初の遺言を復活させる意思が明かな場合についても復活を認めたとしても、民法1025条本文及び但書の趣旨に反するものではないということになりそうです。
法律を適用するにあたっては趣旨に遡って考えることが重要なのですが、この判例はその1つの好例といえるでしょう。
立川弁護士 竹村淳(オレンジライン法律事務所)
当記事は平成30年7月2日時点の法律に基づき執筆しています。
Last Updated on 2023年11月23日 by takemura_jun