最高裁は、預金を含む可分債権は、相続が開始すると当然に分割され、各相続人に法定相続人に応じて帰属するとの立場をとっており(最高裁・昭和29年4月29日判決)、遺産分割の対象財産とはならないとの立場をとっています。
しかし、最高裁の立場によると、遺産の大部分が預金であった場合、特別受益や寄与分を考慮することができず、これらの規定が無意味になってしまうという問題点や、遺産分割における調整手段として預金を用いることができないという問題点が指摘されています。
そこで、いかなる理論的根拠に基づくのかは不明ですが、家庭裁判所の調停・審判では、当事者の合意がある場合は預金も遺産分割の対象とするという取り扱いをしています。
しかし、当事者の合意がない場合、預金は遺産分割の対象財産から外されてしまうのです。
そうすると、各相続人が法定相続分に応じた払い戻しをせざるをえなくなるのですが、これを認めると、寄与分が考慮されないこと等により、相続人の衡平を害する結論となる事態が発生しかねません。
この点、多くの金融機関は、相続人全員の合意がある場合に法定相続分と異なった割合での分割がされることや遺言によって預金債権の帰属が決められることがあり、法定相続分に応じた払戻しをした場合、誤った弁済をしてしまう可能性があることから、遺産分割協議書の提出等、全相続人の同意が確認できない限り、預金の払い戻しをしない取扱いをしていますが、訴訟を提起されれば、上記の最高裁判決がある以上、払戻しに応じざるをえず、不当な結論の防波堤にはならないのです。
上記の最高裁判決は、その結論のもたらす弊害や預金の実務的な取扱いとの乖離からすれば、これが変更されるべきことは明らかであるように思います。
Last Updated on 2023年11月23日 by takemura_jun