あるときに過払いした賃金を後に支払われる賃金から差し引くことを「調整的相殺」といいます。
一方、労基法24条1項「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と規定し、使用者は労働者に賃金の全額を支払わならないことを定めているため(これを賃金全額払いの原則といいます。)、調整的相殺は、同項但書の例外に該当しない場合は、労基法違反となるように思えます。
この問題について判例は、同項但書の例外に該当しない場合であっても、①過払いのあった時期と清算時期が合理的に接着した時期にあるかどうか、②労働者に対し調整的相殺がされることについての予告があるかどうか、③金額が多額かどうか等の観点から検討して、労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれがないといえる場合は、適法であるとの立場をとっています(最高裁昭和44年12月18日判決・福島県教組事件)。
裁判例では、事前に予告がなく、控除額が冬季賞与の約半額であった事案につき、当該調整的相殺を労基法24条1項違反であり無効と判断したものがあります(東京高裁平成20年4月9日判決)
Last Updated on 2023年11月23日 by takemura_jun