1.取締役の解任に「正当な理由」は必要か
取締役は、どのような理由があれば、解任することができるのでしょうか。
この点につき、会社法339条1項は「役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる」と規定し、同条2項は「前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる」と規定しています。
同条2項は「正当な理由」がない場合であっても解任できることを前提とする条文ですから、同条1項による解任に「正当な理由」は不要であると理解できます。つまり、株主総会は、「正当な理由」がなくとも、取締役を自由に解任することができるのです。
2.株主総会の手続きの特則
会社が取締役の解任に関する議案を提出するときは、株主総会参考書類に、解任される取締役の氏名と解任の理由を記載する必要があります(会社法施行規則78条)。
取締役を解任する決議については「議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行わなければならない」という特別な決議要件があります(会社法341条)。
3.正当な理由とは?
会社法339条2項によれば、解任に「正当な理由」がない場合、解任された取締役は会社に対し、損害賠償請求することができます。
では、「正当な理由」とはどのような場合のことをいうのでしょうか。
この点、職務執行に関する不正行為があったとき、法令・定款に違反する行為があったとき、心身の故障のため、職務の執行に支障があるときは、「正当な理由」に該当すると理解されています。
また、著しい能力不足も「正当な理由」に含まれるとする見解も有力です。
一方、経営判断の失敗が「正当な理由」に該当するかについては、肯定する見解もありますが、それを認めてしまうと、解任をおそれて経営判断が委縮してしまうことを懸念し、否定すべきとする見解も有力です。
4.損害賠償の範囲
「正当な理由」がない解任の場合、会社は解任された取締役に生じた損害を賠償しなければなりませんが、その損害に、任期満了までに得られたであろう役員としての報酬が含まれることは争いがありません。
ここで注目すべきは、取締役の任期との関係です。
会社法では、公開会社でない株式会社は、取締役の任期を、定款の定めによって最長10年とすることができます。そして、中小企業では、登記費用の節約等の理由があるのだと思いますが、取締役の任期を10年としているところが少なからず存在します。
しかし、解任に「正当な理由」がない場合、任期満了までに得られたであろう役員としての報酬を損害として賠償しなければならないのですから、任期が長いということは、解任によって高額の損害賠償請求を受けるリスクを抱えるということを意味します。
株主と取締役が一致している会社であれば問題はないですが、そうではない会社については、このリスクを踏まえた任期設定をする必要があります。
立川の弁護士竹村淳(オレンジライン法律事務所)
当記事は平成31年2月26日に執筆しています。
Last Updated on 2023年8月29日 by takemura_jun