法律コラム 弁護士竹村淳が様々な観点から不定期で掲載する法律コラムです。

商法521条の「物」に不動産は含まれるのか(最高裁平成29年12月14日判決)

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立川弁護士 竹村淳
弁護士 竹村 淳 

オレンジライン法律事務所の代表弁護士。
東京都立川市を中心とした地域で活動している弁護士です。
労使紛争、債権回収、賃貸借契約、契約書作成などの企業の法律問題のほか、相続問題や交通事故など個人の法律問題も幅広く法的サポートを提供しており、クライアントのニーズに応じた柔軟なアドバイスを行っています。弁護士としての豊富な経験を活かし、複雑な案件にも迅速かつ的確に対応。ブログでは、日々の法的トピックや事例紹介を通じて、わかりやすく実務的な法律情報を提供しています。

目次

1.留置権とは

 民法295条1項本文は、留置権の内容につき、「他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる」と規定します。

 条文だと内容がわかりづらいので、具体例で説明します。

 Xは、腕時計が故障したので、Y時計店に修理を依頼しました。その後、修理が完了したのでYがXに連絡したところ、Xは来店しました。しかし、Xは修理費用を支払わなかったので、Yは「修理代金を支払うまで腕時計は引き渡さない」と言って、腕時計の引渡しを拒否しました。

 この設例のYは、他人であるXの所有物である腕時計を占有しているところ、腕時計の修理費用というその腕時計に関して生じた債権を有しているため、前記の民法295条1項本文により、修理費用の支払いを受けるまで、腕時計を留め置くことが認められることになります。

 このような権利のことを留置権といいます。

2.商事留置権とは

 留置権については民法の特別法である商法にも規定があり、商法521条は、商人間において双方のために商行為となる行為によって生じた債権があるときは、債権者は、その弁済を受けるまで、その債務者との間における商行為によって債権者の占有に属することになった「物」または有価証券を留置することができると規定します。この商法521条に基づく留置権を商事留置権といいます。

 商事留置権と民法295条の留置権(民事留置権)の違いは、①商事留置権が目的物の所有者が債務者であることを要件としているのに対し、民事留置権にはそのような要件がないこと、②民事留置権では、被担保債権が物に関して生じたものであることが必要であるのに対し、商事留置権ではそのような要件がないことを指摘することができます。

 では、商事留置権と民事留置権で「物」の意味は同じなのでしょうか。

 民法は、85条において「この法律において「物」とは、有体物をいう」と規定し、86条において「土地及びその定着物は、不動産とする」「不動産以外の物は、すべて動産とする」と規定しているので、民法295条の留置権(民事留置権)の対象となる「物」に不動産が含まれることは明らかです。

 しかし、商法には「物」について定義する規定はないこと、そして、商事留置権の立法の経緯・沿革等から、商事留置権の「物」には不動産は含まれないとの見解が主張され、そのような見解を採用する裁判例も現れていました。

3.最高裁平成29年12月14日判決

 この問題につき、最高裁は、平成29年12月14日判決において、商法521条の「物」には不動産が含まれるとの判断をしました。

 最高裁は、その理由につき、①商法521条は留置権の目的物を「物又は有価証券」と定め、不動産を目的物から除外することをうかがわせる文言はないこと、②商事留置権は、民事留置権とは別に、商人間における信用取引の維持と安全を図る目的で特に認められたものであるところ、商人間の取引においては不動産が対象となることが広く行われていることからすると、商事留置権の目的物に不動産を含むと解することが、商事留置権が認められた趣旨に沿うことを挙げています。

4.まとめ

 この論点は、明治時代から存在していたようです。これまで最高裁の判断が現れなかったことのほうが不思議に思えますが、この最高裁判決は、裁判例も分かれていた長年の争いに決着をつけるものであり、重要な意義のあるものといえます。

立川の弁護士竹村淳(オレンジライン法律事務所)
当記事は平成30年12月18日に執筆しています。

Last Updated on 2023年9月21日 by takemura_jun

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