賃料1円でも賃貸借契約は成立するのか(賃貸借契約と使用貸借契約の区別)
1 賃貸借契約と使用貸借契約の民法上の区別
民法594条によれば、使用貸借契約は「当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる」とされています。
一方、民法601条によれば、賃貸借契約は「当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」とされています。
そうすると、借主が1円でも支払うことになれば、「無償で」とはいえないことになり、使用貸借契約は成立せず、賃貸借契約が成立することになるのでしょうか。
2 最高裁の立場
この点につき、最高裁は、賃貸借契約における「賃料」というためには、使用収益に対する対価の意味をもつものと認められるものでなければならないとの立場をとっています。
判例では、次のようなものがあります。
① 最高裁昭和26年3月29日判決
家屋の留守管理をすることは賃料に相当するものとはいえないとしたもの。
② 最高裁昭和35年4月12日判決
家主が妻の叔父にあたる人物に建物2室(合計13畳)を使用させ、他人に貸すのであれば、1畳あたり月額1000円とするところ、親戚の間柄ということで月額1000円を受け取ることにしたという事案において、月額1000円の支払いは、貸室使用の対価ではなく当事者間の特殊な関係に基く謝礼にすぎず、賃料とはいえないとして、賃貸借契約ではなく、使用貸借契約が成立しているとしたもの。
③ 最高裁昭和41年10月27日判決
建物の借主がその建物につき賦課される公租公課(固定資産税)を負担しても、それが使用収益に対する対価の意味をもつものと認めるに足りる特別の事情のないかぎり、この負担は使用貸借契約の成立を認める妨げとなるものではないとしたもの。
3 まとめ
金銭の支払いがあっても、それが使用収益に対する対価といえない場合は、使用貸借が成立するという点はまずもって押さえておくべき点ですが、公租公課(例えば固定資産税)につき、これを負担しても、特段の事情がないかぎり、賃貸借契約ではなく、使用貸借契約が成立するとしているところは、特に注目すべきでしょう。
以上である程度おわかり頂けたのではないかと思いますが、使用貸借契約と賃貸借契約の区別は必ずしも容易ではありません。
立川弁護士 竹村淳(オレンジライン法律事務所)
当記事は平成30年10月17日時点の法律に基づき執筆しています。
Last Updated on 2023年11月23日 by takemura_jun