立川の弁護士「竹村淳」が専門的観点から執筆 法律コラム

平成29年10月22日実施の最高裁裁判官国民審査の参考情報

コラム2017-10-10

平成29年10月22日実施の最高裁裁判官国民審査の参考情報。

平成29年10月22日に実施される最高裁裁判官の国民審査の対象となる最高裁の裁判官は、大谷直人、小池裕、木澤克之、菅野博之、山口厚、戸倉三郎、林景一の7名の裁判官です。

国民審査にあたり、各裁判官が最高裁裁判官に任命されて以来、大法廷においてどのような判断をしてきたかについて情報提供をしようと思います(国民審査とは何かについては、当コラムの過去記事参照)。意外にこういう情報をまとめたサイトはないので、少しでも参考になれば幸いです。

今回、国民審査の対象となる裁判官の任命日は以下のとおりです。

大谷直人 : 平成27年2月17日
小池裕  : 平成27年4月2日
木澤克之 : 平成28年7月19日
菅野博之 : 平成28年9月5日
山口厚  : 平成29年2月6日
戸倉三郎 : 平成29年3月14日
林景一  : 平成29年4月10日

大谷裁判官が任命された平成27年2月17日以降に大法廷が示した判断は以下のとおりです。

①平成27年11月25日判決(平成26年12月14日施行の衆議院議員総選挙の選挙区割りの合憲性)
②平成27年12月16日判決(6か月の再婚禁止期間を定める民法733条1項の合憲性)
③平成27年12月16日判決(夫婦同氏制を定める民法750条の合憲性)
④平成28年12月19日決定(普通預金等は遺産分割の対象となるか。ならないとした過去の判例は変更されるべきか)
⑤平成29年3月15日判決(令状なきGPS捜査の適法性)
⑥平成29年9月27日判決(平成28年7月10日施行の参議院議員選挙の区割りの合憲性)

以下、各事件において、各裁判官がどのような意見を述べたのかを整理してみました。

①平成27年11月25日判決

事件の概要:
平成26年12月14日施行の衆議院議員総選挙の選挙区割りに関する公職選挙法の規定は憲法に違反し無効であるか。

大谷、小池裁判官の意見(多数意見):
同選挙当時の選挙区割りは、前回(平成24年12月16日)施行の衆議院議員総選挙と同様に同様に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものではあるが、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず、区割り規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するとはいえない。

② 平成27年12月16日判決

事件の概要:
女性について6箇月の再婚禁止期間を定める民法733条1項の規定は憲法14条1項及び24条2項に違反するか。

大谷、小池裁判官の意見(多数意見):
 民法733条1項の規定の立法目的は、父性の推定の重複を回避し、もって父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあり、合理性を有するものである。民法772条によれば、100日の再婚禁止期間を設けることで父性の推定の重複が回避されることになるところ、父性の推定の重複を回避するため100日について一律に女性の再婚を制約することは、国会に認められる合理的な立法裁量の範囲を超えるものではなく、立法目的との関連において合理性を有するものということができる。よって、100日の再婚禁止期間を設ける部分は、憲法14条1項にも、憲法24条2項にも違反しない。
 しかし、100日を超える部分については、立法当時は、専門家でも懐胎後6箇月程度経たないと懐胎の有無を確定することが困難であったため、再婚禁止期間を厳密に父性の推定が重複することを回避するための期間に限定せず、一定の期間の幅を設けたことについて合理性があったといえるが、医療や科学技術が発達した今日においては、再婚禁止期間を厳密に父性の推定が重複することを回避するための期間に限定せず、一定の期間の幅を設けることを正当化することは困難になったし、再婚をすることについての制約をできる限り少なくするという社会的要請が高まっていること等をふまえると、100日を超える部分は正当化できる根拠を見出すことができない。100日を超える部分は、国会に認められる合理的な立法裁量の範囲を超え、立法目的との関連において合理性を欠くものになっていたと考えられる。よって、100日を超える部分は、憲法14条1項、憲法24条2項に違反する。

大谷裁判官の補足意見 :
100日の再婚期間内であっても、父性の推定の重複を回避する必要がない場合には民法733条2項に定める場合以外にも適用が除外される場合を認めるべきところ、女性に子が生まれないことが生物学上確実である場合、離婚した前配偶者と再婚するなど父性の推定が重複しても差し支えない場合等には、民法733条1項の規定の適用がないというべきである。

③ 平成27年12月16日判決

事案の概要:
夫婦が婚姻の際に定めるところに従い夫又は妻の氏を称すると定める民法750条の規定は、憲法13条、14条1項または24条に違反するか。

大谷、小池裁判官の意見(多数意見):
⑴ 憲法13条について
 氏は、名と同様に個人の呼称としての意義があるが、名とは切り離された存在として、社会の構成要素である家族の呼称としての意義がある。そして、家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位であるから、このように個人の呼称の一部である氏をその個人の属する集団を想起させるものとして一つに定めることにも合理性がある。一方、氏の変更は、婚姻という身分関係の変動を自らの意思で選択することに伴って生じるものであり、自らの意思に関わりなく氏を改めることが強制されるというものではない。このような現行の法制度の下における氏の性質等からすると、婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。よって、民法750条は憲法13条に違反しない。
 もっとも、婚姻前に築いた個人の信用、評価、名誉感情等を婚姻後も維持する利益は、憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとまではいえないが、氏を含めた婚姻及び家族に関する法制度の在り方を検討するに当たって考慮すべき人格的利益であるとはいえる。
⑵ 憲法14条1項について
 憲法14条1項は、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものである。この点、民法750条は、夫婦がいずれの氏を称するかを夫婦となろうとする者の間の協議に委ねているのであって、その文言上性別に基づく法的な差別的取扱いを定めているわけではなく、民法750条の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではない。
 もっとも、夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている状況が、社会に存する差別的な意識や慣習による影響があるのであれば、その影響を排除して夫婦間に実質的な平等が保たれるようにすることは、憲法14条1項の趣旨に沿うものであり、氏を含めた婚姻及び家族に関する法制度の在り方を検討するに当たって考慮すべき事項の1つではある。
⑶ 憲法24条
 憲法24条2項は「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」と規定するところ、同項は、具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに、その立法に当たっては、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとして、国会の裁量の限界を画したものといえる。
 他方で婚姻及び家族に関する事項は、国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえつつ、それぞれの時代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断によって定められるべきものである。
 婚姻及び家族に関する法制度を定めた法律の規定が憲法13条、14条1項に違反しない場合に、更に憲法24条にも適合するものとして是認されるか否かは、当該法制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し、当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断すべきである。
 ①氏は、家族の呼称としての意義があり、家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ、その呼称を一つに定めることには合理性が認められること、②夫婦が同一の氏を称することは、家族という一つの集団を構成する一員であることを、対外的に公示し,識別する機能を有していること、③嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保することにも一定の意義があると考えられること、④氏の通称使用が広まりつつあるところ、夫婦同氏制による不利益は、氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るものであること等からすると、民法750条は直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認めることはできず、憲法24条に違反しない。

④ 平成28年12月19日決定

事案の概要:
共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は遺産分割の対象となるか(当然に分割され、対象とならないとしていた判例は変更されるべきか)。

大谷、小池、木澤、菅野裁判官の意見(多数意見):
 遺産分割の制度は、共同相続人間の実質的公平を図ることを目的とするものであり、一般的には、被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましく、また、遺産分割手続を行う実務上の観点からは、現金のように、具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産を遺産分割の対象とすることに対する要請が存在する。
 そして、預貯金は、現金との差をそれほど意識させない財産であると受け止められており、一般の可分債権が相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるという理解を前提としながら、遺産分割手続の当事者の同意を得て預貯金債権を遺産分割の対象とするという運用が実務上広く行われている。
 普通預金債権と通常貯金債権は、1個の債権として同一性を保持しながら、常にその残高が変動し得るものであり、このことは、預金者が死亡した場合でも異ならない。そうすると、普通預金債権と通常貯金債権は共同相続人全員に帰属することになるが、これらの債権は、口座において管理されており、共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り、同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在し,各共同相続人に確定額の債権として分割されることはない。
よって、普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権はいずれも遺産分割の対象となり、これに反する過去の判例は変更すべきである。

小池、木澤裁判官の補足意見
預貯金を遺産分割の対象とすると、生前債務の支払い等、被相続人が有していた預貯金を分割前に払い戻す必要があるにもかかわらず、共同相続人全員の同意を得ることができない場合に不都合が生じる可能性がある。このような場合は、審判前の保全処分を利用することで対応することが考えられる。

⑤ 平成29年3月15日判決

事案の概要:
無令状での使用者らの承諾なく秘かに車両にGPS端末を取り付けて位置情報を検索し把握する捜査(以下「GPS捜査」)適法性

大谷、小池、木澤、菅野、山口裁判官の意見(全員一致の意見)
 憲法35条は「住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利」を規定しているところ、この規定の保障対象には「住居、書類及び所持品」に限らず、これらに準ずる私的領域に「侵入」されることのない権利が含まれる。
 GPS捜査は、個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるから、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、刑訴法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる。
 よって、無令状でのGPS捜査は違法である。
 なお、現行刑訴法の検証令状等の令状でGPS捜査を行うことには疑義があり、憲法、刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい。

⑦ 平成29年9月27日判決

事案の概要:
平成28年7月10日施行の参議院議員通常選挙当時の選挙区割りに関する公職選挙法の規定は憲法に違反し無効であるか。

大谷、小池、木澤、菅野、山口、戸倉裁判官の意見(多数意見)
 投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。
 また、憲法が、国会の構成について二院制を採用し、衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨に鑑みれば、二院制の下での参議院の在り方や役割を踏まえ、参議院議員につき衆議院議員とは異なる選挙制度を採用し、国民各層の多様な意見を反映させて、参議院に衆議院と異なる独自の機能を発揮させようとすることも,選挙制度の仕組みを定めるに当たって国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認しうるものである。
 そして、具体的な選挙制度の仕組みを決定するに当たり、一定の地域の住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味する観点から、政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮すること自体が否定されるべきものであるとはいえない。
 改正法は、参議院の創設以来初めての合区を行うことにより、都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを見直すことをも内容とするものであり、これによって平成25年選挙当時まで数十年間にもわたり5倍前後で推移してきた選挙区間の最大較差は2.97倍(本件選挙当時は3.08倍)にまで縮小するに至った。
 参議院議員選挙の特性を踏まえ、平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったものとみることができるし、平成27年改正法は、その附則において、次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得る旨を定めている。
 以上からすれば、選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえない。

林裁判官の意見
 改正法は、一部の選挙区を合区するというこれまでにない手法を導入して長年5倍前後であった最大較差を3倍程度まで縮小したものであり、附則を含めた国会の努力は高く評価されるべきものであり、結論としては多数意見に同調する。
 しかし、一人一票の原則及び投票価値の平等原則に照らした場合、一の選挙区の有権者の投票価値が別の選挙区の有権者の投票価値の約3倍に達する状態について、多数意見のように、違憲状態を脱したとの評価を明言することにはためらいがある。
 「全国民の代表」を選出するに当たっての一人一票の原則及び投票価値の平等は、投票で民意を決定する民主主義制度の根幹であるから、一般的には、一人二票というべき事態となることは原則として許容できないと考える。
 多数意見は、参議院における都道府県単位の選挙制度自体は、参議院に独自性を与える観点から国会の合理的裁量の範囲内であるとの趣旨を指摘しているが、このような単位を用いることは憲法上の要請ではないのであるから、憲法の基本原理としては、参議院議員が憲法43条にいう「全国民の代表」として選出されるものである以上、選挙区割りが都道府県単位を基本とする場合にも、全国民の間の投票価値の平等という憲法上の原則と調和するものでなければならない。

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