立川の弁護士「竹村淳」が専門的観点から執筆 法律コラム

プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報の開示請求に応じなかったプロバイダ等が損害賠償責任を負う場合とは?ー最高裁平成22年4月13日判決

コラム2018-04-03

プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報の開示請求に応じなかったプロバイダ等が損害賠償責任を負う場合とは?-最高裁平成22年4月13日判決

プロバイダ責任制限法4条4項は「開示関係役務提供者は、第一項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない」と規定し、これによれば、プロバイダ等が発信者情報の開示請求を拒否したことにより、請求者に何らの損害が生じたとしても、プロバイダ等に故意または重大な過失がある場合でなければ、プロバイダ等は損害賠償責任を負わないことになります(プロバイダ責任制限法の概要については過去記事をご参照ください)。

では、どのような場合に「重大な過失」があったといえるのでしょうか。

この点が問題となった裁判例がタイトルの最高裁平成22年4月13日判決です。

・事案の概要

Xは、発達障害児のための学校である「A学園」を設置、経営する学校法人A学園の学園長である。

平成18年9月以降、「2ちゃんねる」の「A学園Part2」と題するスレッドにおいて、X及びA学園の活動について、様々な立場からの書き込みがされたが、そのなかで、「なにこのまともなスレ 気違いはどうみてもA学長」との書き込み(以下「本件書き込み」という)がされた。

Xは、Yに対し、裁判外において、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、本件書き込みについての氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス(以下「本件発信者情報」という)の開示を請求したが、Yは「本件書き込みの発信者への意見照会の結果、当該発信者から本件発信者情報の開示に同意しないとの回答があり、また、本件書き込みによってXの権利が侵害されたことが明らかであるとは認められないため、本件発信者情報の開示には応じられない」と回答した。

そこで、XはYに対し、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、発信者情報の開示を求めるとともに、YにはXからの開示請求に応じなかったことにつき、同法4条4項本文にいう「重大な過失」があると主張して、不法行為に基づく損害賠償を求め、訴訟を提起した。

・裁判の経過

第一審(東京地裁平成20年6月17日判決)
本件書き込みによってXの権利が侵害されたことが明らかであるとはいえないとして、Xの請求をいずれも棄却した。

控訴審(東京高裁平成20年12月10日判決)
対象となる人を特定することができる状況においてその人を「気違い」であると指摘することは、社会生活上許される限度を超えてその相手方の権利(名誉感情)を侵害するものであり、このことは、特別の専門的知識がなくとも、一般の社会常識に照らして容易に判断することができるものでああるから、本件書込みがXの権利(名誉感情)を侵害するものであることは、本件スレッドの他の書込みの内容等を検討するまでもなく本件書込みそれ自体から明らかである。したがって、裁判外でXからされた開示請求に応じなかったYには、重大な過失があるとして、損害賠償請求を認容した(15万円)。

・最高裁の判断

発信者情報は、発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密にかかわる情報であり、正当な理由がない限り第三者に開示されるべきものではなく、また、これがいったん開示されると開示前の状態への回復は不可能となるものである。プロバイダ等がこのような発信者情報の性質をふまて発信者情報の開示につき慎重な判断をした結果、開示請求に応じず、そのために、当該開示請求者に損害が生じた場合に、プロバイダ等にに損害賠償責任を負わせるのは適切ではない。プロバイダ責任法4条4項が損害賠償責任を制限した趣旨はこのようなものであると考えられる。

そうすると、プロバイダ等は,侵害情報の流通による開示請求者の権利侵害が明白であることなど当該開示請求が同条1項各号所定の要件のいずれにも該当することを認識し、または、開示要件のいずれにも該当することが一見明白であり、その旨認識することができなかったことにつき重大な過失がある場合にのみ、損害賠償責任を負うと考えるべきである。

本件書き込みは、その文言からすると、本件スレッドにおける議論はまともなものであって、異常な行動をしているのはどのように判断してもXであるとの意見ないし感想を、異常な行動をする者を「気違い」という表現を用いて表し、記述したものと解される。

このような記述は、「気違い」といった侮辱的な表現を含むとはいえ、Xの人格的価値に関し、具体的事実を摘示してその社会的評価を低下させるものではなく、Xの名誉感情を侵害するにとどまるものであって、これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めてXの人格的利益の侵害が認められ得るにすぎない。

そして、本件書き込み中、Xを侮辱する文言は上記の「気違い」という表現の一語のみであり、特段の根拠を示すこともなく、本件書き込みをした者の意見ないし感想としてこれが述べられていることも考慮すれば、本件書き込みの文言それ自体から、これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることが一見明白であるということはできず、本件スレッドの他の書き込みの内容、本件書き込みがされた経緯等を考慮しなければ、Xの権利侵害の明白性の有無を判断することはできないものというべきである。

そして、そのような判断は、裁判外において発信者情報の開示請求を受けたYにとって、必ずしも容易なものではない。

以上からすれば、Yが,本件書き込みによってXの権利が侵害されたことが明らかであるとは認められないとして、裁判外におけるXからの本件発信者情報の開示請求に応じなかったことにつき、Yに重大な過失があったということはできない。

・弁護士竹村淳のコメント

この判例は、プロバイダ責任制限法4条4項の「重過失」とは「開示要件のいずれにも該当することが一見明白であり、その旨認識することができなかったことにつき重大な過失がある場合」であることを明らかにしました。

かなり限定的な解釈であり、ここまで限定することが妥当なのかという議論がありうるところではありますが、必ずしもその意味が明らかでなかったプロバイダ責任制限法4条4項の「重過失」の意味を明らかにしたという点で、重要な判例であるといえます。

立川の弁護士竹村淳(オレンジライン法律事務所)
当記事は平成30年4月3日時点の法律に基づき執筆しています。

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