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長期間の経過と民法597条2項但書の適用(最高裁平成11年2月25日判決)

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立川弁護士 竹村淳

弁護士 竹村 淳 

オレンジライン法律事務所の代表弁護士。
東京都立川市を中心とした地域で活動している弁護士です。
労使紛争、債権回収、賃貸借契約、契約書作成などの企業の法律問題のほか、相続問題や交通事故など個人の法律問題も幅広く法的サポートを提供しており、クライアントのニーズに応じた柔軟なアドバイスを行っています。弁護士としての豊富な経験を活かし、複雑な案件にも迅速かつ的確に対応。ブログでは、日々の法的トピックや事例紹介を通じて、わかりやすく実務的な法律情報を提供しています。

長期間の経過と民法597条2項但書の適用(最高裁平成11年2月25日判決)

1.事案の概要

 昭和33年12月頃、X社の代表取締役はAであり、Aの長男であるBと次男であるYはX社の取締役であった。

 AはX社が所有する土地(以下「本件土地」という)上に木造瓦葺二階建ての建物(以下「本件建物」という)を建築してYに取得させ、本件土地を本件建物の敷地としてYに無償で使用させた。このときに、X社とYとの間で、本件建物所有を目的とする使用貸借契約が(黙示的に)成立した。

 昭和47年2月にAは死亡したが、その後、X社内でYとBとの間で対立が生じ、Yは平成4年1月13日以降、取締役の地位を喪失している。

 X社はYに対し建物収去土地明渡請求訴訟を提起し、原審の口頭弁論終結時において、使用貸借期間は約38年8か月が経過していた。

 なお、本件建物は朽廃には至っていない。また、Bは本件土地に隣接する土地に自宅とマンションを建築しているが、Yには本件建物以外に居住すべきところはない。そして、X社には、本件土地の使用を必要とする特別の事情は生じていない。

 このような事実関係のもとで、使用貸借契約が民法597条2項但書(「ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる」)により終了したといえるかが問題となった。

 原審(大阪高裁平成9年11月7日判決)は、上記なお書きの事情を理由として、民法597条2項但書にいう使用収益をするのに足りるべき期間を経過したものとはいえないと判断した。

2.裁判所(最高裁)の判断

 土地の使用貸借において、民法597条2項ただし書所定の使用収益をするのに足りるべき期間が経過したかどうかは、経過した年月、土地が無償で貸借されるに至った特殊な事情、その後の当事者間の人的つながり、土地使用の目的、方法、程度、貸主の土地使用を必要とする緊要度など双方の諸事情を比較衡量して判断すべきものである(最高裁昭和45年10月16日判決)。

 本件使用貸借の目的は本件建物の所有にあるが、Yが昭和33年12月ころ本件使用貸借に基づいて本件土地の使用を始めてから原審口頭弁論終結の日である平成9年9月12日までに約38年8箇月の長年月を経過し、この間に、本件建物で被上告人と同居していたAは死亡し、その後、X社のの経営をめぐってBとYの利害が対立し、Yは、X社の取締役の地位を失い、本件使用貸借成立時と比べて貸主であるX社と借主であるYの間の人的つながりの状況は著しく変化しており、これらは、使用収益をするのに足りるべき期間の経過を肯定するのに役立つ事情というべきである。

 他方、原判決が挙げる事情のうち、本件建物がいまだ朽廃していないことは考慮すべき事情であるとはいえない。そして、前記長年月の経過等の事情が認められる本件においては、Yには本件建物以外に居住するところがなく、また、X社には本件土地を使用する必要等特別の事情が生じていないというだけでは使用収益をするのに足りるべき期間の経過を否定する事情としては不十分であるといわざるを得ない。

 そうすると、その他の事情を認定することなく、本件使用貸借において使用収益をするのに足りるべき期間の経過を否定した原審の判断は、民法597条2項ただし書の解釈適用を誤ったものというべきであり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

3.弁護士竹村淳のコメント

 本件判決は、昭和45年判決の判断枠組みに基づき、約38年8か月という期間の経過と貸主と借主との間の人的状況の著しい変化をふまえると、本件土地の使用の必要性の相違があるとしても、使用収益するのに足りるべき期間の経過を否定できないとするものであり、いわゆる事例判断の1つではありますが、類似の事件は多いように思われ、参考にすべき判決といえます。

Last Updated on 2017年11月28日 by takemura_jun