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法律コラム 弁護士竹村淳が様々な観点から不定期で掲載する法律コラムです。

除斥期間につき、信義則違反・権利濫用を主張することはできる(最高裁・令和6年7月3日判決)

除斥期間につき、信義則違反・権利濫用を主張することはできる(最高裁・令和6年7月3日判決)

改正前の民法724条は、以下のような条文でした。

(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

この後段部分「不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする」の意味につき、最高裁は、かつて、以下のとおり、判断しました(最高裁・平成元年1月21日判決)。

①同条後段は「被害者側の認識のいかんを問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたもの」であり、除斥期間である。
②除斥期間であるので、期間を経過した時点で、請求権は、法律上、当然に消滅したことになり、当事者が除斥期間の経過を主張しなくとも、裁判所は、期間経過により請求権が消滅したと判断すべきである。
③除斥期間の効果は当事者の主張なしに生じるものなので、信義則違反や権利濫用の主張は主張自体失当である。

しかし、いかなる場合であっても、信義則違反や権利濫用の主張ができないというのは、妥当なのでしょうか。

この点が問題となったのが、旧優生保護法に基づく強制不妊手術は憲法違反であり、これによって生じた精神的・肉体的苦痛について国に賠償を求める一連の訴訟です。

強制不妊手術が行われたのは除斥期間である20年よりも前のことであり、平成元年判決によれば、強制不妊手術が憲法違反であるとしても、除斥期間の経過を理由に、当然に請求が認められなくなってしまうからです。

この点、最高裁は、以下のとおり判断し、平成元年判決を変更しました(最高裁・令和6年7月3日判決)。

①同条後段は除斥期間を定めたものであり、請求権は、除斥期間の経過により、法律上、当然に消滅する。

②しかし、平成元年判決のように、当事者の主張がなくとも、裁判所は請求権が消滅したと判断すべきであり、除斥期間の主張が信義則違反または権利濫用であるという主張が主張自体失当であるとすることは、事案によっては、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することのできない結果をもたらすことになりかねない。

③したがって、裁判所が除斥期間の経過により請求権が消滅したと判断するには当事者の主張が必要であり、請求権が除斥期間の経過により消滅したものとすることが著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない場合には、裁判所は、除斥期間の主張が信義則に反しまたは権利の濫用として許されないと判断することができる。

そして、本件について最高裁は、国が除斥期間の主張をすることは信義則違反に反し、権利濫用として許されないとしました。

最高裁自身もいうように、除斥期間の主張が信義則違反、権利濫用とされるケースは極めて限定されると思われますが、除斥期間については援用が不要という最高裁の従前の立場を変更するものであり、重要な意義を持つ判断といえます。

当記事は2024年7月13日に執筆しました。

Last Updated on 2024年7月13日 by takemura_jun