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法律コラム 弁護士竹村淳が様々な観点から不定期で掲載する法律コラムです。

賃貸借契約の「原状回復」について

この記事を書いた人
立川弁護士 竹村淳

弁護士 竹村 淳 

オレンジライン法律事務所の代表弁護士。
東京都立川市を中心とした地域で活動している弁護士です。
労使紛争、債権回収、賃貸借契約、契約書作成などの企業の法律問題のほか、相続問題や交通事故など個人の法律問題も幅広く法的サポートを提供しており、クライアントのニーズに応じた柔軟なアドバイスを行っています。弁護士としての豊富な経験を活かし、複雑な案件にも迅速かつ的確に対応。ブログでは、日々の法的トピックや事例紹介を通じて、わかりやすく実務的な法律情報を提供しています。

【賃貸借契約の「原状回復」について】

賃貸借契約が終了した場合、賃借人(借主)が「原状回復義務を負う」ということは、みなさん、ご存知だと思います。

ただ、この意味を正確に理解されていらっしゃるでしょうか。

民法によると、賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合、賃貸借契約が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負います(民法599条1項)。
そして、賃借物を受け取った後に生じた損傷を原状に復する義務を負います(民法621条)。

この2つの義務を合わせたものが、一般的に認識されている原状回復義務だといえるでしょう。

問題となるのは、後者、すなわち、「賃借物を受け取った後に生じた損傷を原状に復する義務」の理解です。

この点、民法は、賃借人の原状回復義務について、「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」と定めています(民法621条)。

もう少しわかりやすく言うと、民法は、原状回復義務を「賃借人の使用によって発生した損傷のうち、通常の使用によって発生した損傷や経年劣化によるものを除く損傷を、契約時の状況に復旧すること」と規定しているのです。

逆にいうと、民法によると、通常の使用によって発生した損害や経年劣化については、それを復旧(回復)する必要はないということになります。

これが民法のルールであって、契約書上、「賃借人は賃貸借契約終了時に原状回復しなければならない」というような条項しかない場合は、このように解釈されることになります。

これと異なるルールにしたいのであれば、契約書上に定めなければならず、逆に異なるルールが嫌なのであれば、そういったルールが存在しないかを確認する必要があります。
この点は、しっかりと意識する必要があります。
見てなかった、知らなかった、は、少なくとも、ビシネスをやっている場合は、通用しません。

そして、この原状回復の問題で厄介な点は、契約書の文言を確認すればそれでOKということではないというところです。
これは、損傷の復旧の場面ではなく、附則した物の収去の場面でも問題となります。

その問題というのは、契約書の文言だけでは、復旧すべき「原状」が何なのかがわからないというところです。

いわゆるスケルトン渡しであれば、「原状」はスケルトンの状態ですから、戻すべき「原状」は明らかであり、多くの場合、問題とならないでしょう。

しかし、前賃借人が残した設備や什器備品をそのまま使う、いわゆる「居抜き」の場合はどうでしょうか。

「原状」ということばだけでは、そのときの具体的な状況は不明ですから、契約終了時になって、この損傷を生じさせたのは誰なのか(前の賃借人であれば復旧の対象外)、この什器備品はいつからあったのか(前の賃借人のときからであれば撤去の対象外)という争いが生じかねないのです。

では、どうすればいいのか。

1つの案は、契約締結時に、賃借物の状態を撮影しておくということがありうるでしょう。
その画像を契約書に添付できればなおよいです。

もちろん、それでも撮影漏れが生じてトラブルになる可能性はあります。
しかし「原状」という文言だけよりも、はるかに原状回復をめぐるトラブルを回避できることは明らかだと思います。

わかっている方には当たり前のことを言っているだけに思われるかもしれませんが、私が知る限り、多くの方がこのあたりを適当にやっている(よくチェックしていない)印象がありましたので、情報提供させて頂きました。

この記事は、2024年7月23日に執筆しました。

Last Updated on 2024年7月23日 by takemura_jun